38. オーロラをテーマにした小説はある?
有名なのは、新田次郎の「アラスカ物語」(新潮社)、曾野綾子の「極北の光」(新潮社)でしょう。両方とも、壮絶な人間ドラマなのですが、その中でオーロラが、運命や人生の方向を示唆するメッセージとして使われています。
フランク安田は眼を上げて北極光を見た。
空で光彩の爆発が起っていた。赤と緑がからまり合って渦を巻き、その中心から緑の矢があらゆる空間に向って放射されていた。彼に向って降りそそがれる無限に近いほど長い矢は間断なく明滅をくりかえしていた。
光の矢は彼を射抜くことはない。それは頭上はるかに高いところで消えた。だが、消えた緑の矢は、感覚的には、姿を隠したままで、彼に向って降りそそがれていた。身体に痛みこそ感じないが、恐怖は彼の全身を貫き、しばしば立止らざるを得なかった。
(「アラスカ物語」より)
それは凍てついた夜空を煽り、星を撫でながら走り、森のかなたに舞い上がり、光子はオーケストラ・ボックスの中にいて、熱演する指揮者の音楽に連れて揺れる天空の緞帳を見ているような思いになった。
(「極北の光」より)
戸川幸夫は、アラスカの雄大な雪原を舞台に、子ともたちにカいっぱい生きることの大切さを教えた動物ドラマ「オーロラの下で」(金の星社)の中で、次のように描いている。
オーロラは、ゆらゆらとゆれるかと思うと、ほのおのように燃え上がり、あるときはがらりと、もようを変える。それは空というカンバスに、神が大自然の絵筆でえがく、おそろしいまでの、みごとな芸術といえた。
(「オーロラの下で」より)