40. 大気ニュートリノの謎?

実はもう一つ、ニュートリノの変化についての大変興味深い実験結果があります。

宇宙線中のパイ中間子がミュー粒子に崩壊する時、ミューニュートリノとペアになって崩壊します。またミュー粒子が電子に崩壊する時、ミューニュートリノと電子ニュートリノを伴って崩壊します。従ってパイ中間子が崩壊すると、2個のミューニュートリノと1個の電子ニュートリノが作られるというわけです。この比はおおむね2です。

ニュートリノは物質とほとんど衝突しないので、巨大な水槽を用意して実験をします。神岡鉱山の中で、大気中で作られた二次宇宙線中のミューニュートリノの数を、下から来たものと上から来たものと比較したところ、下から来たものが上から来たものより少ないことがわかったのです。この実験結果を解釈する最有力な考え方は、地球の下から長い距離を走る間に、ミューニュートリノは、タウニュートリノという別の種類に変身してしまったのだというものです。ヨーロッパでは、加速器ビームを使って、ニュートリノが変身して作ったタウ粒子を実際に見てみようという計画が進行中です。タウ粒子が写真乾板で見つかれば、パウエルがパイ中間子の崩壊を観測したのと同じような衝撃が走ると思われます。もう1個のノーベル賞が日本に来るかもしれませんね。

追記

実際に、2015年度のノーベル賞はニュートリノの変身(振動)問題の解決に大きな貢献をした梶田先生とカナダのマクドナルド先生に授与されました。ニュートリノが変身するということは、ニュートリノにわずかな質量があるためです。しかし何故質量があるのか?それはまだ大きな謎なのです。