28. 放射線帯の電子が増えるしくみは?

放射線帯の電子の数は、いくつかの磁気嵐の回復相で非常に増 えますが、その理由についてはいまも議論が続いています。

現在のところ、次の2つの異なる立場からのメカニズムが提案されています。1つは、これまで紹介したように、粒子を磁場の強い場所に輸送することで粒子のエネルギーを上げ(断熱加速)、 放射線帯の電子の数を増やすメカニズム。もう1つは、粒子を輸送させることなく、その場でなんらかの作用により粒子のエネル ギーを上げる(非断熱加速)メカニズムです。

以前は、前者のプロセスによって放射線帯の粒子は増えると考 えられていました。しかし 1990 年代後半からは、特にプラズマ波動*による非断熱加速が有効に働いて、後者のプロセスにより放射線帯の粒子が増える可能性が、クローズアップされてきました。そして、2012 年に打ち上げられた米国の Van Allen Probes 衛星によって、非断熱加速が存在することが実証されました。また、日本のあけぼの衛星の長期観測によって、放射線帯が 増えやすいときにはプラズマ波動が活発になって非断熱加速が起 きていることが示されています。 いま、この 2つの異なるメカニズムがどのようなときに起こりやすいか、またどちらが粒子を 増やすのに関わっているかなどについて、精力的に研究が行われ ています。

放射線帯の粒子が増えるしくみを解明することは、放射線帯の 研究だけではなく、宇宙における粒子の加速の問題、そして自然 がどうやって相対論的なエネルギーを持つ粒子を作り出すのか(19 参照)といった問題につながる、重要な研究テーマです。

*プラズマ波動: 宇宙空間の 99% を占めているのがプラズマ。プラズマの中には、いろいろな波が存在しています。その波は、プラズマの中で情報を伝えたり、エネルギーの受け渡しをするなど、大切な役割を果たします。