名古屋大学 宇宙地球環境研究所
宇宙線研究部(CR 研究室)

MOA 重力レンズ探索

主な担当教員・研究員

教授 伊藤いとう 好孝よしたか
  1. 重力レンズ
  2. ブラックホール
  3. 太陽系外惑星
  4. 浮遊惑星

宇宙には、光り輝く星や電波でその存在がわかる分子運や塵、X線やガンマ線で観測される中性子星などの高密度天体の他にも、ほとんど観測にかからない天体が多数あると考えられています。例えば、最近話題の太陽系外惑星(単に系外惑星とも呼ばれる)やブッラクホール、浮遊惑星などです。これらは、他の手法でも観測されてはいますが、非常に限られた条件でしか観測できません。また、こうしたいわゆる”観測バイアス”を推定することが困難であるために、この様な天体の存在量を推定することは、困難とされています。重力マイクロレンズは、重力レンズ効果による遠方の星の増光現象です。手前を通過する天体の重力レンズ効果が、ちょうど凸レンズの作用をして、遠方の星が一時的に明るく見えます。これを利用すると、手前を通る天体は光などの電磁波を使うことなく、その存在を知ることができます。また、確率統計モデルによる観測バイアスの推定が、比較的容易であることから、こうした天体の存在量が推定できます。

重力レンズ

1936 年、当時プリンストン高等研究所に居たアインシュタインは、アマチュア科学者マンドル氏の訪問を受けます。マンドル氏は、2 つの星がほとんど完全に視線上に重なると、手前の星の重力で光が曲げられ、地球上からは丸い像が見え、普段より明るく見える筈だと考え、その話をアインシュタインに伝えました。アインシュタインは、原理上は正しいと思いましたが、実際にそうした現象を観測することは、不可能だと思いました。しかし、マンドル氏の熱意に負けて、重力レンズの論文を出版しました。これが重力レンズの始まりです。

20 世紀後半になると、観測技術の進歩のより、重力レンズを実際に観測できる様になりました。1979年に、遠方のクェーサーが手前の銀河による重力レンズで 2 つの像に別れているのが発見されました。星の様な、コンパクトな天体による重力レンズで起きる増光現象(マイクロレンズ効果)は、1993 年に MACHO、EROS、OGLE の 3 つのグループにより、独立にほぼ同時に発見されました。重力レンズは、いわば重力で天体を検出するこてができるので、これを利用した光の様な電磁波では観測が困難な暗黒物質(ダークマター)などの研究に利用される様になりました。

ブラックホール

時空にあいた穴とも言うべきブラックホールは、重力方程式の解として得られます。ブラックホールは、長い間理論上のものでしかありませんでした。しかし、近年X線観測などにより、周りの物質がブラックホールに落下して加熱され、光っていると考えられる天体が多数発見され、その存在は疑う余地がないと考えられています。こうしたブラックホールは、太陽の何十倍もの質量の星が重力崩壊してできたと考えられています。しかし、たまたま大量の物質を吸い込んでいるブラックホールを観測しただけでは、宇宙にどれだけこうしたブラックホールがあるか知ることは困難です。

また、宇宙初期の密度ゆらぎから生まれたとされる原始ブラックホールは、非常に軽いものから太陽の10万倍程度まで、さまざまな質量のものがありうるとされています。しかし、原始ブラックホールの多くは、電磁波による直接観測は困難と考えられています。

こうした電磁波を発しないブラックホールの探索には、重力マイクロレンズが適していると考えられています。

太陽系外惑星

宇宙のかなたの太陽以外の星を周る惑星の発見は、長い間人類の夢でした。特に、生命を宿す地球型惑星は、地球外生命へのロマンと妄想を掻き立て、多くの人の興味を引きつけて来ました。一方、太陽系外惑星は、地球を始めとした太陽系の惑星がどのようにして誕生したのか、その生い立ちを知る手がかりを与えます。太陽系外惑星が発見されるまでは、人類は”我々の太陽系”しか知らなかったのです。太陽系内の8個の惑星だけではわからない何かを知ることができる、太陽系外惑星の研究にはそうした期待があります。

太陽系外惑星の研究は、1990 年代の最初の発見からすでに数千個の惑星が発見される様になり、理論・観測の面から様々な研究が行われています。しかし、太陽系外惑星の直接撮像は極めて難しく、現在の技術では主星から遠く隔たった誕生直後の巨大惑星に限られています。間接的に惑星を検出する、視線速度法やトランジット法は、主星に近接した惑星に感度が高い方法で、主星のすぐそばを周る惑星をたくさん発見しています。しかし、主星から数天文単位程度の巨大惑星形成領域を、地球質量程度まで探索できるのは、現時点でマイクロレンズ法だけです。この領域は、特に惑星形成の理解に重要だと考えられています。

浮遊惑星

従来、惑星は太陽の様な恒星の周りを周る軌道を持つと考えられ、単独で宇宙に漂う惑星質量の天体は無いと考えられていました。近年、赤外線観測の進歩により、星形成領域の中で単独の惑星質量と思われる天体がいくつか報告される様になりました。しかし、こうした天体の質量は、不確実性の高い理論的なモデルに頼っていて、本当に惑星質量なのかどうか良くわかっていませんでした。また、星形成領域の観測だけでは、こうした天体が宇宙にどれだけあるのかわかりませんでした。マイクロレンズ効果を用いることによって、こうした天体の存在量を、より確実に知ることができます。