ESA Symposium 出張記 by 栗原純一



 20096月初めに一週間ほどドイツ・バートライヒェンハルに出張してきました。目的は二年に一度開催される「ESA観測ロケット・気球シンポジウム」に出席するためです。「ESA(イーサ)」とは「欧州宇宙機関」のことで、米国のNASAに相当する、ヨーロッパ各国が共同で宇宙の開発・研究を行う機関です。このESAが主催するシンポジウムは数多くありますが、その一つが観測ロケットや気球を使った科学研究に関するこのシンポジウムです。今回はドイツが開催国で、ドイツ南東部のバイエルン州にあるバートライヒェンハルという小さな街で行われました。



 このバートライヒェンハルはオーストリアとの国境近くにあるため、日本から行く場合はオーストリア側のザルツブルグから鉄道またはバスで行くのが一般的です。私たちもザルツブルグを経由したのですが、このザルツブルグという名前は「塩の城」という意味で、中世に塩の交易で栄えた都市です。中世の街並みがそのまま残るザルツブルグの旧市街と歴史的建造物は世界遺産にも登録されており、またミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」やモーツァルト生誕の地としても有名ですね。

ザルツブルグ旧市街の背後にそびえるホーエンザルツブルグ城。




 そのザルツブルグを繁栄させた塩を産出していたのがドイツアルプスの麓にあるバートライヒェンハルなのです。現在でも大きな塩の工場があり、そこで生産された食塩は日本でも販売されています。この街の中心部には、塩を大量に含む地下水を利用した温泉療法の施設などがあり、保養地としても有名なようです。今回のシンポジウム会場は、昔の温泉療法施設に併設された公会堂のような建物でした。会場のそばには噴水があり、天気の良い日には湯治に来ている(?)お年寄りが噴水の周りに置かれたシートでのどかに日向ぼっこをしている光景が見られました。


噴水の周りを取り囲む日向ぼっこ用シート。


 さて、このシンポジウムで私は、今年の1月に私たちが行った「DELTA-2キャンペーン」という観測ロケットとEISCATレーダーなどを用いた観測キャンペーンの初期結果について発表をしてきました。シンポジウムの参加者はヨーロッパを中心に200名近くあり、二部屋に分かれて同時進行するほどの盛況でした。日本からの参加者は私を含めて4名でした。私はこのシンポジウムに今回初めて参加したのですが、世界中のロケット・気球観測屋が一同に介する様子は、とてもエキサイティングでした。もちろん知り合いも多かったのですが、全くの初対面の相手に話しかけられたり、こちらから積極的に話しかけたりして、まるで旧知の研究仲間のように発表内容について議論したのは久しぶりのような気がします。

バートライヒェンハルのシンポジウム会場。



 観測ロケットは、現在の日本では年間の打ち上げの機数が1〜2機しかないため、人工衛星やレーダー観測に比べると影の薄い印象がありますが、地球大気の高度50〜数100kmに到達してその場で観測することができる唯一の観測手段として、世界ではまだまだ盛んに利用されています。世界四大射場(ノルウェー・アンドーヤ、スウェーデン・エスレンジ、米国・ワロップス、米国・ポーカーフラット)を合わせると、年間打ち上げ数は優に50機を超えるでしょう。それ以外にもロシア、インド、ブラジルなどの射場でも観測ロケットは毎年打ち上げられています。シンポジウムでは、観測ロケットや気球を用いた大気・電離圏の観測以外にも、天文、微小重力、生命科学に加えて、機器開発や教育などの分野についても講演発表があり、多種多様な利用法があることを再認識しました。

バイエルン地方独特の手荒い歓迎式典。空砲を撃っている。




会場横の公園にあったモーツァルトの横顔のオブジェ。


 シンポジウムでは講演発表が充実していただけでなく、コーヒーブレークやランチ、ディナーパーティー、さらにはエクスカーションに至るまで、主催者と開催国の配慮がすばらしく、とにかく楽しい毎日を過ごしました。アルプスの天気は変わりやすく、一日に二回は必ずザーッと雨が降るのですが、雲のない昼間は眩しいほどの夏空になります。帰国の頃には、美味しいビールの飲み過ぎとアイスクリームの食べ過ぎで増えた体重もお土産になってしまいました。

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