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Since March 8, 2021

トロムソ滞在記 by 冨田修平

 「雨か。。。」
2月、トロムソに到着したときの最初の感想だ。霧雨が街を包み、等間隔に建てられた街灯がぼやけている。 空には、街灯を映すほど低い雲が垂れ込め、右へ右へと流れてゆく。何時間飛行機に乗って来たことか。 北極圏まで来て天気は雨。長野にスキーに行って、雨に降られたことのある人なら、懐かしささえ感じられる雰囲気だ。

ホテルに着くと玄関には『白熊のハクセイ』と『日本人』。日本人!?空港にもトイレにも外国人しかいなかった。 東南アジア系の人さえほとんど見かけないこの北欧で、ホテルの玄関に『おばちゃん』が二人。。なんかガッカリだ。外は雨。玄関には赤い絨毯と熊のハクセイ。そして、おばちゃん。 どっかの温泉旅館に来た気分だ。急に白熊のハクセイが安っぽく見えてきた。

次の朝、8時前なのにまだ薄暗い。天気は曇り。ジャージのまま外に出ても寒くない。 目の前にある山々は長野の山々とは一味違う。氷河地形と言うべきか、良く言えば雄大。しかし荒々しさが無い。 深く切れ込んでいるのに角が無い。不思議な感じがする。 山といえば富士山を思い浮かべる日本人にとっては、コレを見るだけでもノルウェーに来る価値はある。

ワインのつまみのような朝食を食べ、こらから生活する街にむかう。 街は、とても洒落た雰囲気がある。街の雰囲気は、一軒一軒の家が作り出している。 各々がシンプルでとてもセンスがよく、モデルルームのように美しい。僕の生活する家も例外ではなかった。 玄関を開けるとドラマの中に出てくるようなリビングがそこにあった。

しかも、地上2階、地下1階のこの家をたった2、3人でシェアーする。あこがれのルームシェアーを北欧で行うのだ。 昨日の『おばちゃん』を見たときの気分とは一転してワクワクしてきた。

あれから5日、北欧での生活は実に快適だった。毎日が発見の連続で、飽きることがない。 しかし、ここに来てからというもの天気が悪くオーロラを見ることができない。 今日の天気は昨日よりマシかな?と毎日のように思う。 これが、普通の海外旅行だったら、、、飛行機を乗り継ぎトロムソまで来て、オーロラを見ずに帰る準備をしている頃だ。

夜になり、いつものようにリビングの窓にへばりつく。

時差ぼけと新天地に来た疲れで、程なく寝てしまう。 小一時間ほど経った頃だろうか、ふと窓の外を見ると、いつもの雲とは違う何かがそこにあった。 慌てて外に出て、確認するが何か分からない。オーロラ?期待しているから、何でもそう見えてくる。 でも、そんな気がする。写真で見るような光のカーテンではない。 ボーっとした、雲かどうかも分からないような、モヤモヤが空に浮いていた。 良く見ると。そのモヤモヤは、薄くなったり、濃くなったり、あるいは形を変えたりしている。 オーロラだ!!間違いない!!!!そう思ったとき、叫びながら一人踊っていた。 横を地元の人が通ってもかまわず踊っていた。

数日経つと、この日見たくらいのオーロラが出ていても普通に街を歩いて夕食の買い物をする自分がいた。 観測期間の前後に見たオーロラは全天に広がる、恐ろしい程のものだった。 これは、確かに素晴らしく圧倒された。 しかし、今思うと、一番印象的だったのは、色も形もはっきりしない、あの最初に見たオーロラだったと思う。

日本に帰って来てから一週間、英語の夢も見なくなった 。ノルウェーに滞在して得た一番の経験は、もちろんオーロラと言いたいところだが、 実際には外国の人たちとルームシェアーして暮らしていたことだと思う。