SASのエアバス340ではエコノミー席でも個人テレビがついており、数本の映画の中から自分の好きなものを選ぶことができる。しかし、おもしろい映画がないと離陸後すぐわかり、少しがっかりした。さて旅程は、成田空港からコペンハーゲンへ飛び、そこで乗り換え、オスロにてノルウェーに入国。そこでまた乗り換えて、北緯約70度の北極圏の町、目的地トロムソに達する。予定だと現地時間午後9時35分トロムソ着である(時差は8時間)。1日かからず、一気にオーロラが見られる北極圏まで行けるのは、少し驚きである。
この旅程計画には1つ問題がある。それはオスロ発トロムソ便にうまく乗り継ぐために、コペンハーゲン空港にて短時間の乗り換えを決行しないといけないこと。オスロ発トロムソ行きの便が今回乗り継ぐ便の次だと翌日0時30分トロムソ着の便しかない。もし遅い便にした場合、オスロ空港にて3時間(日本時間だと午前4時から7時ぐらい)以上も「仮死状態」で待つはめになる。それを避けるため、オスロ午後7時45分発の便に乗るように多少無謀な(?)旅程にしてある。最近、EU内外の旅行者の区別が厳しく(でもアメリカほど厳しくはない)、コペンハーゲン空港にてEU外からEU内への国際線を乗り換えるのに、パスポートコントロールおよびセキュリティゲートを通過する必要がある。EU外からの国際線はCターミナルに着き、オスロ行の便はBターミナルから出る。重い手荷物を持ってかなりの距離(500 mぐらい?)を移動する上に、パスポートコントロールおよびセキュリティゲートの通過を、わずかの時間でこなさなければならない。計画では、今回の乗り換え時間はわずか45分。ひやひやものである。
最初から暗雲がただよった。我々が乗るエアバスの成田空港への到着が遅れた影響で、我々の便は約30分遅れの出発となった。単純計算すると乗り換え時間はわずか15分となる。
今回の目的は、(1)オーロラ光学機器とEISCATレーダーとの同時観測、(2)下部熱圏大気ダイナミクス研究のためのEISCATレーダー観測、である。ISレーダー観測により、電子密度、イオン温度、電子温度、イオン速度が時間分解能(1分程度)、空間分解能(E領域で3 km程度)良く求めることができる。これら物理パラメータ解析することにより、電離圏で生起している種々の現象の解明を行っている。特にオーロラ光学観測機器と併用することにより、詳細な現象の解明が可能となる。一方、下部熱圏大気ダイナミクスの研究においてもISレーダーはもっとも強力な観測装置の一つである。EISCATレーダーでは高度90 kmから120 kmの「風」が時間分解能6分、高度分解能3 kmで連続して導出できる。
オーロラは高度約90 kmから400 kmで輝いている。磁気圏から電離圏(熱圏)へ磁力線に添って、電子が降り込み、大気と衝突することにより、大気にエネルギーを与え、発光させる。代表的なオーロラ光は、波長427.8 nm (窒素分子イオン) 青紫色、波長557.7 nm(酸素原子)緑色、波長630.0 nm (酸素原子) 赤色などが挙げられる。前2者は、低高度領域( 90 - 120 km)での発光であり、後者は高度200-300 km付近で主に輝いている。図2にEISCATレーダーにより11月23日19:00-23:00 UTに観測された電子密度を示した。太陽紫外線による電離作用がない夜間、熱圏(電離圏)の大気を電離するものは、主にオーロラ粒子である。すなわち、図2の中で強度が強い(赤い)ところでは磁気圏から降り込んできた電子により電子密度が増えており、(簡単に考えると)そこにはオーロラが輝いていると考えることができる。例えば、高度100 km付近に電子密度の増加がみられる20:15UTから21:30 UTには緑色のオーロラが強かったと考えることができる。図3にわれわれがこのサイトで自動観測を行なっているフォトメータによる波長427.8 nmと630 nmのオーロラ発光強度を示した。
EISCATレーダーの電子密度との対応は非常に良いと言える。図4に同日21時12分に撮影された(露光6秒)オーロラの写真も示した。この時刻には、EISCATによりE領域で電子密度の増加がみられる。またフォトメータにより強い発光が観測されている。これは、複数の観測機器を組み合わせることにより、オーロラの詳細な研究が可能になる1つの例であると言える。
ISレーダーは、電離圏で起こる種々の物理現象を解明するには非常に強力な観測装置である。特に太陽活動の影響が顕著にあらわれる極域電離圏の観測は、太陽から注入されるエネルギーを求めるために重要であると言えよう。さらにEISCATレーダー観測に種々の光学観測機器を組み合わせることにより、これらの現象のより深い理解が可能になる。