トロムソ出張 by 小泉宜子



 2007年11月に3週間ほどノルウェーのトロムソに出張してきました。出国前のドタバタぶりは、研究所ニュースレター (STEL Newsletter49号)を見ていただくことにして、ここでは現地でのお話をしたいと思います。


 私たちのグループでは、高緯度地域の超高層大気の研究を行っており、観測の主力は北欧にある欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーです。このレーダーの一つがノルウェーのトロムソの郊外に設置されています。トロムソは北緯70度近い北極圏の街で、日本でもオーロラツアーなどで有名なところです。

 今回は国立極地研究所の小川さんに同行し、EISCATレーダー・衛星・地上光学機器による総合観測のお手伝いをすることになりました。私の担当は、極地研が所有するオーロラ観測用の光学機器の運用です。毎日、太陽が沈んで空が十分暗くなってから観測を開始し、夜明け前に終了させます。深夜にはEISCATレーダーでの観測が行われ、そのつどオーロラの状態にあわせて、光学機器の調整を行ったりします。この時期のトロムソは1日中夜の続く極夜ではないものの、太陽が出ている時間は2〜3時間のみ。名古屋大の観測機器がある小屋の整備など、明るいうちに行わなくてはいけない作業もあり、太陽のありがたみを実感しました。

右手前にある小屋に極地研の光学観測機器が設置されています。 名古屋大所有の観測機器がある小屋 EISCATレーダー。右からはUHF帯、左からはVHF帯の電波をだして観測を行います。


 トロムソに着いてからすぐにレーダーサイトに移動し、3週間ずっと滞在していたので、1週間に1回行く買い出しがとても楽しみでした。食事は全て自炊のため、最寄りのスーパーまでサイトのスタッフに車をだしてもらって必要な食材を買ってきます。ノルウェーといえばやはりサーモン。サーモンと野菜を煮込んだ鍋(というよりはスープ)はとてもおいしかったです。他にもヨーグルトやジュースもおいしかったですし、チョコレートや粉末状のスープの素は日本人の味覚にもあうので、お土産に買って帰りました。

サーモン入りパスタ。おいしそうでしょ? クリスマス限定マックビール。トロムソにある
世界最北のビール工場で作られています。
レーダーサイトの方に頂いたワッフル。金曜日の昼食はみんなでワッフルを焼くらしいです。


 帰国日の前日は、午後にトロムソ中心街に移動して1泊することになっていました。そのため朝から荷造りやら観測データの整理やらで大忙し・・・と思ったら停電です。実は1週間ほど前からポンプのトラブルで水道の断水が頻発していて、まさにダブルパンチです。街まで車で送ってもらう時間の1時間前に停電は復旧し、観測機器の点検を大慌てでして、何とか予定通りに街まで送ってもらうことができました。

 その日にどうしても会いたかったのがトロムソ大学オーロラ観測所にいるJune Lundeさん。彼女は私とほぼ同時期に名古屋大学にきて、9ヶ月ほど同じ部屋で研究をしていました。訪ねたのが夕方遅くになってしまったので、まだオーロラ観測所にいるか心配していたのですが、無事会うことができました。相変わらず元気そうで、お土産に持っていった彼女の大好物の「柿の種」を喜んでくれました。

 小川さんと夕食を食べた後、少し街歩きをしてちょっぴり観光。クリスマスまであと1ヶ月近くあるのに、トロムソの中心街はイルミネーションで彩られていました。港の近くの広場には、南極点に初めて到達したアムンセンの像があります。ちなみに6月にニュージーランドに行ったときに、アムンセンより遅れて南極点に到達した後遭難してしまったスコットの像にもお会いしています。わずか半年の間に、しかも北半球と南半球で二人の像を見れるなんて、なんだか不思議な気分でした。

トロムソ中心街の大通り。なぜか写真を撮ったときに誰も人がいませんね。 アムンセン像。飛行艇で北極点を通過し、
人類初の南北両極点到達をしています。
スコット像@クライストチャーチ
in ニュージーランド


 次の日、観測のためさらに北のロングヤービン向かう小川さんとトロムソ空港で別れて、無事帰国しました。観測は大きなトラブルもなく順調にデータを取得でき、幾晩かすばらしいオーロラを見ることができました。観測のための長期出張というのは私にとって初めて経験で、毎日いろいろなことがありましたが、とても充実した日々を送ることができました。