電磁気圏環境部門 東山


研究内容

各種出版物に掲載された記事

Introduction Figure


はじめに

華麗なオーロラが見られる高緯度地域の地球大気では、興味深い自然現象が数多くの発生しています。私たちの研究グループではこの高緯度地域の超高層大気に注目し、中性大気とプラズマが混合した電離圏内の様々な物理量を、レーダー、フォトメーターなどを用いて観測し、オーロラ、風、電流などダイナミックに変動する自然現象を、エネルギーの流れと変換、プラズマや電流の流れといった点に注目して研究を行っています。研究対象としている領域は、中間圏(高度50-90 km)、熱圏(中性大気、高度90-600 km)、電離圏(電離大気、高度60-1000 km)、磁気圏(高度1000 km以上、地球磁場の影響の及ぶ範囲)です。最近は、これらの領域間の相互作用が特に注目されています。

私たちは主に観測に基づいて研究を進めており、その中心的な観測装置は、欧州非干渉散乱レーダー(EISCATレーダー)と呼ばれる地球物理用の世界最高水準のレーダー群です。そのパラボラアンテナは口径32 mと42 m、半シリンダー型アンテナは長さ120 mにも及ぶという巨大なもので、最高出力は2.4 MWです。このEISCATレーダーは、日本と欧州6ヵ国(イギリス、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)の国際協同により運営されており、レーダーは、ノルウェーのトロムソ(北緯69.5゜)、スウェーデンのキルナ(北緯67.9゜)、フィンランドのソダンキラ(北緯67.4゜)、およびスヴァールバル諸島ロングイヤービエン(北緯78.2゜)に設置されています。トロムソ、キルナ、ソダンキラはオーロラ帯の真下に位置し、もっともオーロラ観測に適したところです。またロングイヤービエンは太陽から来るプラズマ粒子が直接磁気圏に流入する“カスプ域”と呼ばれるところにあります。

私たちは、日本の中心的研究グループとしてEISCATレーダーを用いた特別実験の実施、観測データの収集・解析などを行っています。さらにEISCATレーダー観測と組みあわせて、人工衛星・ロケットなどの飛翔体や、他のレーダー(分反射レーダー)、光学機器などとの同時観測、総合的な観測を行い、物理現象の理解に取り組んでいます。


トロムソにあるVHF(左)とUHF(右)レーダー

トロムソUHFレーダーとオーロラ


磁気圏と電離圏のエレクトロダイナミクスの研究

電離圏と磁気圏は地球の磁力線によって相互につながり、電流、電場、粒子などを通じて影響を及ぼし合っています。プラズマ現象の理論を基盤として、EISCATレーダーや人工衛星から得られる観測データを用いて、オーロラ帯はもとよりさらに高緯度で発生している電離圏-磁気圏結合過程についても研究を行います。日本の“あけぼの”などの人工衛星から得られるプラズマ、電流、電場などのデータは、オーロラの爆発的な発達をはじめとする、磁気圏と電離圏の間の電磁気学的な物理過程メカニズムの研究に使用されています。磁気圏と電離圏は互いにフィードバック系を形成しており、対象とする現象は時間的・空間的に複雑に変動します。このため、軌道上の変動だけを観測する人工衛星観測と、2次元的な観測を行う地上からの観測(レーダーやオーロラ撮像)の比較が重要となります。

EISCATレーダーを用いて、地磁気擾乱時に特に顕著なオーロラ電流を定量的に知ることができます。あわせて得られる電気伝導度と電場を用いて、オーロラ電流の研究を進めています。さらに、磁気圏-電離圏結合に重要な沿磁力線電流の特性の研究を行い、極域電離圏での3次元電流系の研究を進めています。これら観測的な手法に加え、シミュレーションを用いて、極域電流系の研究も進めています。特に、磁気圏から電離圏に電子が侵入する場合に、どのような電流系が作りだされるか、電子とイオンの輸送により電離圏でどのようなプラズマ分布が作られるのか、それに伴って電場がどのような作用をするのかをシミュレーションにより評価し、観測から得られる結果とともに、3次元電流系の物理機構を理解しようとしています。


下部熱圏-中間圏相互作用の研究

下部熱圏大気(高度約90-130 km)は、磁気圏-電離圏-熱圏間の相互作用において重大な役割をになっています。私たちは、EISCATレーダーを利用して下部熱圏大気の運動(風)の研究を進めています。さらに、トロムソに設置されている中間圏観測用分反射(MF)レーダーを合わせ用い、中間圏から下部熱圏にわたる大気ダイナミクスの研究を行っています。下層大気から伝わる各種大気波動が下部熱圏大気にどのような影響を与えているかを定量的に解明するため、2つのレーダーの同時観測データを解析して研究を進めています。また、オーロラなどの極域電磁気現象がより低い高度の中間圏へどのように影響を及ぼしているか、という問題も調べています。

高層の大気では、海の潮の満ち引きと同じように、1日や半日で周期的に風速・温度などが変動する現象があります。これを大気潮汐とよんでいます。トロムソおよびロングイアビンのEISCATレーダーを利用して、下部熱圏において大気潮汐波が緯度によってどのように変化するかを研究しています。さらに、他のレーダーのデータも使って、全地球的な大気潮汐波の緯度による変化の原因解明を進めています。また、アメリカや日本の他機関の研究者との共同研究により、大気モデル、大気大循環シミュレーションとの比較研究も進めています。


イオン流出現象の研究

極域電離圏から水素イオンやヘリウムなどの軽いイオンが、磁力線に沿って磁気圏へ継続的に流出する理論モデルが提唱されたのは1970年のことです。1970年代になると、このようなイオン流出現象が多くの人工衛星によって発見されました。極域電離圏からのプラズマ流出は、磁気圏プラズマの源として重要と考えられています。質量分析器を搭載した人工衛星により、酸素イオンや一酸化窒素イオンなどの重たいイオンが磁気圏へ流出していることが観測されています。この現象は惑星大気の生成と消滅、進化に関わる問題で、大変興味深い問題です。しかし、これらのイオンは最初に電離圏内のオーロラ帯や極冠域などで加熱され、磁気圏へ流出していると考えられていますが、その物理メカニズムは未だ解明されていません。

私たちはEISCATレーダーを用いて、酸素イオンが主なイオンである高度400 km付近で起きているイオン上昇流の高度、時間変動を観測し、同時に得られたプラズマ温度、密度などのデータを使って、プラズマの流出と加熱の機構が何であるのかを探っています。