最近の研究成果・研究活動


ここでは、最近の研究成果や研究活動についてわかりやすく紹介します。

(1)DELTA-2キャンペーンの実施
(2)オーロラアーク周辺の電離圏のイメージング
(3)多波長光学機器−EISCATレーダー同時観測によるプロトンオーロラの研究
(4)2005年9月のEISCAT1月連続観測による下部熱圏大気潮汐波の研究
(5)パルセーティングオーロラ中で観測された下部熱圏(高度110km付近)の風速変動の研究

(6)高緯度の下部電離圏のイオン運動に見られる擾乱とその発生に与える振動電場の役割

(7)イオン‐中性粒子衝突周波数の推定手法の開発

(8)光学観測データを用いた電離圏電気伝導度の推定手法の開発



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(8)光学観測データを用いた電離圏電気伝導度の推定手法の開発

Oyama, S., T. Watanabe, R. Fujii, S. Nozawa, and T. T. Tsuda, Estimation of the layered ionospheric conductance using data from a multi-wavelength photometer at the European Incoherent Scatter (EISCAT) radar site, Antarctic Record, 57(3), 339-356, 2013..

Figure1

EISCATレーダートロムソ観測所にあるフォトメータは代表的なオーロラ波長である 427.8 nm, 557.7 nm, 630.0 nmの光強度を測定している。オーロラを発生させる高エネルギー電子は熱圏粒子を励起・発光させるだけでなく同時に電離も引き起こすため、オーロラの発生と共に電離圏電子密度が増加し、その結果、電離圏電気伝導度も増加する。電気伝導度は磁気圏−電離圏−熱圏結合を電磁気学的に理解する上で非常に重要な物理量であり、高度によってその特徴が異なる。オーロラ光強度と電気伝導度に相関があることは古くから知られており、光学観測データのみから推定する手法開発研究の結果、高度積分した全電気伝導度とオーロラ光強度との関係が定式化された。しかし高度に依存した関係式は求められていない。そこで、オーロラ波長によって発光する高度が異なるという特徴を活かし、さらにEISCATレーダーとフォトメータが同じ方向(磁力線方向)を同時に測定しているイベントを解析することで、高度に依存した関係式を求めることに成功した。

図の説明: EISCATレーダーの観測値から電気伝導度を導出し、F領域(パネルa)、上部E領域(パネルb)、下部E領域(パネルc)に分類する。それぞれを縦軸に取り、フォトメータで測定したオーロラ光強度を横軸に取った分布図を示す。オーロラ光は波長によって発光高度が異なるので、各高度領域の代表波長として、F領域には 630.0 nm(パネルa)、上部E領域には557.7 nm(パネルb)、下部E領域には427.8nm(パネルc)の測定値を用いた。灰色の直線と曲線は本研究で求められた関係式であり、観測結果をよく代表していることが分かる。

 

 

(7)イオンー中性粒子衝突周波数の推定手法の開発

Oyama, S., J. Kurihara, B. J. Watkins, T. T. Tsuda, and T. Takahashi, Temporal variations of the ion-neutral collision frequency from EISCAT observations in the polar lower ionosphere during periods of geomagnetic disturbances, J. Geophys. Res., 117, A05308, doi:10.1029/2011JA017159, 2012.

Oyama_Nuin

超高層大気におけるイオンと中性大気粒子の衝突過程は重要な素過程であるが未解明課題が残る分野でもある。その衝突頻度を示す物理量であるイオン-中性粒子衝突周波数νinは、電離圏電導度や電流密度といった様々な物理量のパラメータであり、高緯度における磁気圏-電離圏-熱圏結合の理解にとって不可欠な物理量である。これまでにも様々なνinの推定手法が提案されてきたが、高度による時間変化の違いを再現することが難しかった。そこで新しい手法をEISCATレーダーで観測されたデータに応用し、高い高度分解能(約3 km)で下部熱圏のνinを推定した。その結果、地磁気活動の変化に伴ってνinが変化する様子を捉える事が可能になった。

 

図の説明:2009115日の17 - 21 UTEISCATレーダーで観測された(a)電子密度とイオン温度と(b)イオン-中性粒子衝突周波数νin。地磁気活動が活発でイオン温度が高い時間帯(パネル(a)の黒点線)と活動が低く比較的イオン温度が低い時間帯(パネル(a)の灰色点線)のνinをそれぞれ黒丸と白丸/灰色三角で示す(三角印はパネル(a)(b)で対応)。またモデル計算されたνinを黒線で示す。高度115 km以上では地磁気活動が高い時間帯にνinの変動が激しいことが分かる。一方、高度115 km以下では変動幅が小さい。

 

 

(6)高緯度の下部電離圏のイオン運動に見られる擾乱とその発生に与える振動電場の役割
Oyama, S., A. Brekke, T. T. Tsuda, J. Kurihara, and B. J. Watkins, Variance of the vertical ion speed measured with the EISCAT UHF radar in the polar lower ionosphere at Tromsø, Norway, J. Geophys. Res., 116, A00K06, doi:10.1029/2010JA016129, 2011.

EISCATレーダーのような非干渉散乱レーダーで下部電離圏高度(95-130 km)を観測していると、数分スケールの周期をもつイオン速度の振動がしばしばとらえられる。下図aはその例であり、高度109.9kmのイオン速度の鉛直成分(上下方向のイオン運動)に5時間に渡り細かい振動が発生していたことが分かる。この現象は地磁気活動が活発になると出現しやすいことがこの研究で明らかにされた。このことは磁気圏から高緯度電離圏・熱圏に注入される電磁気エネルギーを理解する上で重要な現象である。そこで、電磁気エネルギー注入において重要な役割を担う磁気圏の電場に振動が存在する場合を想定し、下部電離圏のイオン速度の分散を理論計算した(下図b)。この理論計算値と観測データ(白抜きの△)を比較したところ、非常に良い一致を示したことから、観測されたイオン速度の振動は磁気圏電場に由来することが示唆された。

 

image004

図の説明:(aEISCATレーダーで5時間にわたり高度109.9kmにおいて観測されたイオンの上下運動の速度。(b)aのようなイオン速度の時系列データから分散値を計算し、各高度の分散値を図示した結果(白抜きの△)と、振動する磁気圏電場を想定して理論的に導出された電離圏イオン速度の分散値。

 


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(5)パルセーティングオーロラ中で観測された下部熱圏(高度110km付近)の風速変動の研究
Oyama, S., K. Shiokawa, J. Kurihara, T. T. Tsuda, S. Nozawa, Y. Ogawa, Y. Otsuka, and B. J. Watkins, Lower-thermospheric wind fluctuations measured with an FPI in pulsating aurora at Tromsoe, Norway, Ann. Geophysicae, 28, 1847-1857, 2010.

パルセーティングオーロラ(脈動オーロラ)はオーロラブレイクアップの後に数時間にわたり発生するオーロラの一種で、周期数秒程度で点滅することが特徴である。典型的なオーロラ現象の一つであり、数10keVのエネルギーを持つ電子の降込みによって電離圏電子密度や電気伝導度が高くなる傾向にある。一方、強い電場は伴わないことが多く、電導度の割には流れる電離圏電流量は小さく、ジュール加熱率も低い。しかし、20091月にノルウェー北部で実施したDELTA-2 (Dynamics and Energetics of Lower Thermosphere in Aurora-2)キャンペーン中に発生したパルセーティングオーロラをファブリペロー干渉計(波長557.7 nm:主に下部熱圏高度を観測)、全天カメラ、EISCATレーダーで観測したところ、オーロラ中に出現した周辺より暗い部分で数10m/sを超える上下運動が観測された。極域下部熱圏風の加速を発生させる有力なエネルギー源は、磁気圏起原の磁力線に垂直な電場が考えられてきた。しかしそのような電場はこのイベントでは弱く、本観測結果はこれまでの説明とは異なる物理機構の存在を示唆している。本研究では、パルセーティングオーロラを発生させる周期的な粒子降込みによって振動性分極電場が電離圏内で発生し、ジュール加熱率が増幅されたという仮説を提唱した。

 

図の説明:01:15 UT(世界標準時)から01:39 UTに全天カメラで撮影された画像(疑似カラー表示。地理緯度・経度座標に投影)とファブリペロー干渉計で観測された水平風ベクトル(黒矢印)。パルセーティングオーロラが画面全体に分布している中、周辺より比較的暗い部分(白太点線で囲まれた部分)が中央北から画像中心に浸入してきた。この暗い部分が天頂にさしかかった01:26UTに風速方向が急激に変化していることが分かる。

 

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(4)2005年9月のEISCAT1月連続観測による下部熱圏大気潮汐波の研究
Nozawa, S, Y. Ogawa, S. Oyama, H. Fujiwara, T. Tsuda, A. Brekke, C. Hall , Y. Murayama, S. Kawamura, H. Miyaoka, and R. Fujii, Tidal waves in the polar lower thermosphere using the EISCAT long run data set obtained in September 2005, J. Geophys. Res., 115, accepted.

200596日から29日に得られたEISCAT UHFレーダーの約23日連続観測データを用いて、極域下部熱圏における大気潮汐波の時間変動に関する研究を実施した。1日大気潮汐波は、913日から20日の期間、それ以前およびそれ以後と比較して、高度110-120kmにおいて、非常に低い振幅強度を示した。その変動の原因を調べたところ、イオンドラッグでは説明できず、別の物理機構が必要である示唆が得られた。半日大気潮汐波について、前半の10日間と後半の5日間とを比較すると、その鉛直波長が、2倍近く異なることが発見された。さらに、MFレーダーデータを解析したところ、中間圏においては、下部熱圏高度と逆の振る舞いを示していることが分かった。これらのことは、大気潮汐波の支配的なモードが、短期間(1週間程度)で大きく変わること、また、中間圏と下部熱圏高度にかけて、支配的なモードが異なることを示している。さらに、下部熱圏において、準2日波の時間変動を示すとともに、周期6日前後のプラネタリー波の存在を報告した。

図の説明:2つの期間についての、半日大気潮汐波の位相変動を示した。高度70kmから91kmについては、MFレーダーデータから求めている。2つの期間において、それぞれ鉛直波長が異なること、また、中間圏から下部熱圏にかけて、モード変動が起こっていることがわかる。

 

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(3) 多波長光学機器EISCATレーダー同時観測によるプロトンオーロラの研究

Fujii, R., Y. Iwata, S. Oyama, S. Nozawa, and Y. Ogawa, Relations between proton auroras, intense electric field and ionospheric electron density depletion, J. Geophys. Res., 114, doi:10.1029/2009JA014319, 2009.

 

オーロラアーク近傍における磁気圏−電離圏結合を担う3次元電流系の構造を理解することを目的として、プロトンイメージャー (透過波長 486.1 nm)4波長フォトメータ (427.8 nm, 557.7 nm, 630.0 nm, 844.6 nm)、電子オーロラ用全天カメラをトロムソで運用し、EISCATレーダーや地上磁力計などと共に、下向き沿磁力線電流領域の同時観測を行いました。20061020日のイベントでは、プロトンオーロラ発光・電子密度の減少・電離圏電場の増加といった電離圏物理量の相互関係を捉えることに成功しました。

 

図の説明:上記イベント(図中の赤点線で囲まれた時間帯)が観測されたときのオーロラと電離圏の様子を示します。上から、プロトンオーロラの発光強度と電子オーロラ(波長427.8 nm557.7 nm)の発光強度の時間変化、電離圏の電子密度、イオン温度、電子温度の時間−高度分布です。プロトンオーロラの発光強度の増加に伴い電子密度が減少し、イオン温度と高度100km付近の電子温度が上昇していることがわかります。これらの現象はすべて、3次元電流系の電離圏への影響として現れています。

 


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(2) オーロラアーク周辺の電離圏のイメージング
Oyama, S., T. T. Tsuda, T. Sakanoi, Y. Obuchi, K. Asamura, M. Hirahara, A. Yamazaki, Y. Kasaba, R. Fujii, S. Nozawa, and B. J. Watkins, Spatial evolution of frictional heating and the predicted thermospheric wind effects in the vicinity of an auroral arc measured with the Sondrestrom incoherent-scatter radar and the Reimei satellte, J. Geophys. Res., 114, A07311, doi:10.1029/2009JA014091, 2009

 グリーンランドにあるソンドレストローム非干渉散乱レーダーと、れいめい衛星に搭載された高感度カメラを用いて、オーロラアーク周辺の電離圏を撮像することに成功しました。オーロラアークは、高いエネルギーを持った電子が磁力線に沿って磁気圏から高度100kmくらいまで降り注ぐことによって生まれます。その電子の移動は、上向き沿磁力線電流と呼ばれています。キルヒホッフの法則として知られているように、電流は閉回路を形成すると考えられており、下向き沿磁力線電流を含めた両沿磁力線電流を電離圏高度でつなぐ水平電流(ペダーセン電流)が発生していると考えられています。ペダーセン電流が電離圏に発生すると、そこにある中性大気が抵抗の役割をして熱が発生します。これをジュール加熱といいます。加熱によりイオン温度が上昇します。一方、下向き沿磁力線電流は、上向きに移動する電子が担います。その結果、電離圏の電子密度が減少します。そのような一連の現象の微細構造が、図に示すようにレーダーとカメラによってイメージングされました。また詳細な解析によって、中性大気にもオーロラアークによって微細構造が形成されていた可能性が示唆されました。

 

図の説明:れいめい衛星がソンドレストローム・レーダー上空を飛翔しながら搭載カメラで連続撮影したオーロラ画像と、レーダーが観測した電離圏の電子密度、イオン速度、イオン温度、および電子温度を比較した図を掲載しています。ほぼ磁気東西方向に伸びたオーロラアークが観測視野に現れています。電子密度はアークの中で増加、アークの磁気極側で減少しています。一方、イオン速度とイオン温度はアークの磁気極側で増加しています。これらは、沿磁力線電流とペダーセン電流がつくる電流系の存在を可視化した観測結果と言えます。

 

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(1) DELTA-2キャンペーンの実施
2009
114日から26

 
  観測ロケットによるその場観測、トロムソEISCAT UHFレーダーによる電波観測、FPIや全天カメラ等による光学観測を相補的に組み合わせ、極域下部熱圏における大気力学とエネルギー収支の研究を目的とした国際総合キャンペーン観測「DELTA-2キャンペーン」を実施しました。観測ロケットS-310-39号機は、ノルウェーのアンドーヤ実験場から2009年1月260:15UTに打ち上げられ、トリメチルアルミニウム (TMA) 放出による中性風観測などを行った。打ち上げ約10分後にオーロラブレークアップが発生し、その前後の風速変化を捉えた貴重なデータが得られた。EISCAT UHFレーダーの運用は、EISCAT加盟国 (ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ドイツ) およびフランスとの国際協同研究として実施しました(107.5時間)。この期間中に取得されたレーダーデータは、ロケット観測データとの比較研究だけではなく、下部熱圏大気ダイナミクス、電離圏電気伝導度、電離圏電流系等の研究を進める上で貴重なデータセットとなります。ロケット打ち上げの晩、ファブリ・ペロー干渉計 (FPI) 557.7 nmの透過フィルターのみを用いた観測モードで運用され、上記オーロラブレークアップに伴う急激な速度変動をとらえることに成功しました。



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