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研究内容

地球の周りの宇宙空間を「ジオスペース」と言います。 ジオスペースには、目には見えませんが、「地磁気」と呼ばれる地球固有の磁場が広がっています。 右のアニメーションは、ジオスペース中の地磁気の形状を、最新の「国際標準地球磁場(IGRF)モデル」を使って、描いてみたものです。

このような、ジオスペース中に地磁気が張り出している広大な空間を「磁気圏」と呼びます。 磁気圏は、太陽から吹き付けてくるプラズマの風「太陽風」の影響によって絶えず変動しています。

わたしは、この磁気圏の変動を、人工衛星に搭載された「磁力計」や地上に設置された「磁力計」を使って観測・研究しています。 磁気圏が変動すると、ジオスペースに存在するプラズマの性質も変化します(ジオスペースは真空ではなく、電子やイオンなどのプラズマ粒子が飛び交っています)。 そこで、人工衛星で計測されたプラズマ粒子の量がどのように増減するか、それがなぜ起こるのか、についても研究しています。

こうした研究の成果は、最近ニュースやテレビで耳目にする「磁気嵐」がどのように発達・回復していくのかを理解したり、「宇宙天気」の予測精度を向上させたりすることに役立ちます。

[学生さんへ] 新しい磁力計のシステムを開発すること、海外に磁力計を新たに設置すること、それらの観測データを使ってジオスペースの電磁気環境や宇宙天気を研究すること、などに興味がある人は是非研究室を訪ねてきてください。以下では、具体的に取り組んでいるテーマについて説明しています。

1. サブストーム時の酸素イオンの加速

下の写真のように、極域で「オーロラ」が舞い踊っているとき、ジオスペースでは何が起こっているでしょうか?

人工衛星でジオスペース中の磁場を計測してみると、その大きさや向きが非常に激しく変化していることが分かります。このような、オーロラやジオスペースでの磁場の激しい変化など一連の擾乱(じょうらん)が起きる現象を「サブストーム」と呼びます。

ジオスペースには、水素イオン(プロトン)だけでなく、「酸素イオン」などの重いイオンも飛び交っており、サブストームが起こった時にはこれらのイオンの振る舞いが変わります。人工衛星が計測した磁場とイオン量のデータを解析した結果、磁場の激しい変動に伴って、酸素イオンはその速度を大きく増加させたのに対し、水素イオンは速度変化がそれほど大きくないことが明らかになりました。これは、サブストーム時の磁場の激しい変化には、酸素イオンだけに選択的に働きかけるメカニズムがあることを示しています。

下の図は、2013年6月30日に人工衛星が観測したデータを示しています。カラーパネルの1枚目は水素イオンの量、2枚目は酸素員の量を表しています。01:55ごろから急激に酸素イオンの量だけが増えたことが分かります。

2. 酸素イオントーラスの全体描像と生成メカニズム

ジオスペースの中でも、GPS衛星が飛んでいるような高度2万kmあたりには、酸素イオンがたくさん集積していて、その密度が高くなっている領域があります。この領域は、1980年代に発見されましたが、酸素イオンの密度を正確に計測することが難しいこともあり、その全体的な描像や集積している原因などはまだよくわかっていません。最初に発見した研究者は、ドーナツのように地球を取り巻いているのではないかという考えから、「酸素イオントーラス」という名前で呼びました。

酸素イオン密度を直接観測することは難しくても、地磁気が振動しているときにその周期を測れば、酸素イオンがどの程度含まれているのかを間接的に推定することができます。この間接的な方法を複数の人工衛星のデータに適用し、酸素イオントーラスは、実はトーラスのように地球を360度取り巻いているのではなく、三日月形またはC字形をした欠損トーラスではないかということを示しました。このことは、ジオスペースの中でプラズマがどのように動いていくかを、計算機シミュレーションすることでも実証されました。

下の図は、地球およびジオスペースを北極上空の高いところから見下ろした模式図です。中央の白黒の円が地球で、上半分が昼間、下半分が夜であることを表現しています。ジオスペース内を同時に飛翔している2機の人工衛星の観測から、酸素イオントーラスの形は黄色の領域(三日月形)のようになっているのではないかと推定しました。

下の図は、計算機シミュレーションの結果です。最初は均等に分布していた酸素イオン(左上図)が、時間が経つにしたがってある領域に集積し、三日月形になっていく様子(右下図)が再現されています。

3. 地磁気脈動とイオン間のドリフトバウンス共鳴

ジオスペースでは地磁気は時として、非常にきれいな正弦波的変化を示すことがあります。これは、磁力線があたかもゴムひものように振る舞い、その伸び縮みする磁力線に波動が起こっていること原因と考えられています。(ゴムひもを両手で持って、真ん中あたりを弾くと、ゴムひもに波動が生じることに対応したものです。) こうした現象は、地磁気がぴくぴくと脈をうつのになぞらえて、「地磁気脈動」と呼ばれています。

一方、ジオスペース中を飛び回っているイオンは、地球の周りをぐるっと周回(ドリフト)したり、磁力線に沿って南北を往復(バウンス)したりしています。これらのドリフト運動やバウンス運動の周期と、地磁気脈動の周期がある条件を満たすとき、イオンと地磁気脈動の間で結合が起こり、エネルギーのやり取りが行われます。(ブランコに乗っているときに、足の動きをうまく合わせると、ブランコの振動がどんどん大きくなっていくようなものです。この場合、ブランコの動きが地磁気脈動、足の動きがイオンのドリフト運動・バウンス運動に対応します。) この状態を、「ドリフトバウンス共鳴」といいます。

ジオスペースで計測した磁場とイオン量のデータを解析し、このドリフトバウンス共鳴現象の研究を進めています。酸素イオンだけに働きかけるドリフトバウンス共鳴があることや、複数の共鳴状態が同時に起こりうること、エネルギーのやり取り方向(波からイオンに移るのか、イオンから波に移るのか)は、ジオスペースに存在するプラズマの状態にコントロールされていることなど、最先端の観測事実が明らかになりました。

4. 磁気インピーダンスセンサーによる地磁気計測実験

地磁気の計測には、一般的に「フラックスゲート磁力計」と呼ばれる計測器が使われます。しかし、フラックスゲート磁力計は1台数百万円と非常に高価なため、たくさんの磁力計を用意して、観測ネットワークを構築したりすることは困難です。そこで、食品工場などで金属性異物の検知用に数万円程度で販売されている「磁気インピーダンスセンサー」を使って、地磁気が計測できないかを実験することにしました。写真は、実験に使ったセンサーです。長さが5㎝程の小さいものです。右端の部分に磁場を検出するためのアモルファスワイヤーが入っています。

京都府京丹後市峰山町の山の中でテスト観測を行いました。まだ改良すべき点は残っていますが、右のプロットに示したように、磁気インピーダンスセンサー(――)でもフラックスゲート磁力計(――)に匹敵するような精度で地磁気の振動現象がきちんと計測できることが分かりました。そこで、磁気インピーダンスセンサーとRaspberry Piなどを使って、地磁気の計測・記録システムを安価に製作し、たくさんの磁力計で密な観測ネットワークを作れないかの検討を進めています。

5. フィールドワーク(観測機器設置)の実施と観測データ解析

地球物理学は、地球スケールで生じる現象を研究対象にする学問なので、観測機器で自然現象を捉えるには地球規模のフィールドワークに出ていく必要があります。日本だけでなく、観光旅行ではまず行くことのない海外の街に出かけて行って、現地の研究者と協力しながら観測機器を設置します。苦労もありますが、それだけでデータが取れて、興味のある現象が観測されていると、その苦労も吹き飛びます!(現地の食べ物も楽しみです!)