Nozawa Activities

これまでの研究活動

野澤悟徳

研究活動は大きく2つに分けることができる。（１）大学4年生時代から博士号取得まで行った星生成領域の研究（宇宙科学）、（２）EISCATレーダーを中心とした複数観測装置による極域下部熱圏・中間圏の研究、である（地球惑星科学）。（２）に関しては、トロムソ(69.6°N. 19.2°E)で稼働されているEISCATレーダーを用いた下部熱圏大気ダイナミクスを嚆矢とし、磁気圏-電離圏-熱圏結合に着目して研究を発展させた。現在、下部熱圏・中間圏を中心とした大気上下結合に着目して研究を進めている。「対流圏・成層圏からの擾乱、および太陽風エネルギー流入に対して、極域下部熱圏・中間圏がどのように応答し、どのようなフィードバックを他の領域に与えるのか？」、の解明がターゲットである。これらに加え、EISCATレーダーを用いた国内共同研究および国際協同研究の推進が挙げられる。

（１）学部4年生から博士号取得まで約8年にわたり、名古屋大学構内に設置された４m電波望遠鏡を用いて、星生成領域の研究を行った。一酸化炭素輝線（波長2.7 mm）による掃天観測を効率的に進めるため、4m電波望遠鏡のバッグエンド系の開発・改良を行い、観測時におけるオーバヘッドタイムを1/3以下に抑制し、大規模データ処理（数千から数万分子輝線の解析）を可能とした。４m電波望遠鏡を用いて、へびつかい座領域の広域観測を行い、この領域の星間分子雲および星生成に関する研究を行った。この研究成果により、1991年8月に博士（理学）号を名古屋大学大学院理学研究科より授与された。この研究成果を発表した論文は、現在まで幅広く引用されている（Nozawa et al., ApJS, 77, 647-675, 1991; 被引用回数81回from Web of Science; 以下、回数は被引用回数 2020年9月4日付）

（２）トロムソEISCATレーダー、MFレーダー等を用いて下部熱圏・中間圏大気ダイナミクスを研究し、地磁気静穏時（太陽風エネルギー流入効果ほぼなし）(Nozawa and Brekke, JGR, 104, 45-66, 1999; 20回)、および地磁気擾乱時（太陽風エネルギー流入効果あり）(Nozawa and Brekke, JGR, 100, 14,717-14,734, 1995; 48回)における、下部熱圏(高度95-120 km)風の変動を明らかにした。MF レーダーデータを主に用いた極域中間圏(高度70-91 km)における準2日波（惑星波の一種）の研究を実施し、準2日波の季節変化が中低緯度とは大きく異なることを、初めて明らかにした（Nozawa et al., JGR, 108, 2002JD002440, 2003; 30回）。さらに、北極域中間圏で観測される準2日波は、基本的には混合ロスビー重力モード波と考えられるが、局所的な力の影響を受けていることを初めて指摘した（Nozawa et al., JGR, 108, 2002JD003221, 2003; 18回）。トロムソ(69.6°N. 19.2°E)とスバールバル諸島ロングイアビン(78.2°N, 16.0°E)で運用されている2つのEISCATレーダーを用いた8日間連続同時観測を実施し、準2日波は、冬期において下部熱圏高度まで侵入しないこと、イオンドラッグの影響は、低緯度側のトロムソの方が、より低高度(107 km)から顕著になることを初めて示した（Nozawa et al., J. Geophys. Res., 110, 2005JA0011128, 2005;17回）。トロムソEISCATレーダーにより、2005年9月に得られた約1月間連続データを解析し、下部熱圏において、半日潮汐波の支配的なモードが、１週間程度で劇的に変化することを観測データに基づいて初めて示した（Nozawa et al., J. Geophys. Res., 115, 2009JA015237, 2010; 3回）。

フォトメータデータを用いて、降下電子エネルギー導出研究を進め、オーロラの代表的な発光である427.8 nmと630 nmの2つの発光強度から電離圏電気伝導度を導出し、同時観測されたEISCATレーダーデータから導出した値と比較を行った。その結果、フォトメータから導出した電気伝導度は、時間変動をよく追尾しているが、定量的には1/3程度低く見積ることを示した(Adachi, Nozawa et al., EPS, 69: 90. 10.1186/s40623-017-0677-4, 2017;野澤が責任著者；2回). さらに世界初となる視野方向確認機構を持つ5波長フォトメータを開発・運用している(Nozawa et al., EPS, 10.1186/s40623-018-0962-x, 70:193, 2018; 1回)。

2007年からナトリウム(Na)ライダーの開発に着手し、2010年10月から観測を開始した。世界初の5方向同時観測が大きな特徴である。設置後もライダーシステムの改善を行い、大学院生１名で運用可能な非常に安定なシステムを実現した。NaライダーとEISCATレーダー等との同時観測データを用いた大気加熱の研究（Nozawa et al., JGR, 119, 441-451, 2014; 12回）、スポラディクナトリウム層(SSL)の研究、オーロラ降下粒子に伴うNa密度変動を実施した。これらの成果により、2017年に地球電磁気・地球惑星圏学会より田中舘賞が授与された。現在、大気上下結合の解明を目指し、鉛直風の研究、大気安定度の研究、SSLの統計研究等を進めている。また、EISCAT科学協会の評議員（日本から2名）を2010年から務めており、EISCATレーダーを用いた国際共同研究やEISCAT_3D計画推進に、日本の中心研究者の１名として大きく関わっている。

＊用語概説

EISCATレーダー: European Incoherent Scatter; 超高層大気（高度60 kmから1000 km程度）観測用の大型レーダー。

EISCAT科学協会：ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、英国、中国、日本の6ケ国により運営されている国際科学協会。1976年に設立。日本は、1996年から加盟国。

EISCAT_3Dレーダー: 新型の大型レーダー。現有EISCATレーダーの性能の100倍が期待されている。総工費100 億円以上。2022年からの観測開始が予定されている。

MFレーダー：約3 MHz付近の電波を用いた中間圏(高度70-100 km)風速観測用のレーダー

星間分子雲：宇宙空間に存在する水素分子密度が高い領域。一部は収縮して、星が生まれる。

太陽風：太陽から流出するプラズマガス（主に、水素イオン、ヘリウムイオン）。地球に到達し、磁気嵐やサブストームを発生させる。オーロラの素。

ナトリウムライダー：光(波長589.1573 nm)を用いたレーダー。高精度のレーザー光を用いて、Na原子からの共鳴散乱光を受信することにより、大気温度、風速、ナトリウム密度を導出する。

フォトメータ：通常2 nm程度の狭帯域フィルータを用いて、特定のオーロラ発光強度を測定する。オーロラ観測の初期から利用されている。

惑星波：周期1日以上の、惑星規模（波長数万km）の大気の波。

準2日波：周期が約2日の惑星波の一種。

半日潮汐波：大気の中に存在する周期12時間の惑星規模の大気の波。高度80 kmより上では、振幅が非常に大きい。

地球大気：対流圏(-15 km)、成層圏(15-50 km)、中間圏（50-90 km）、熱圏(90-600 km)と温度構造により分類されている。高度は目安であり、季節変動等あり。

超高層大気：高度60 kmより上の大気。ほぼ中間圏と熱圏に対応する。大気の一部が電離しており、電離圏が存在する。

イオンドラッグ：高度60 kmより上の大気では、大気が一部電離して、イオンと電子が存在する。イオンは電磁気的な力により動き、大気と衝突し、力を与える。

磁気圏：宇宙空間の中で地球磁場の勢力が支配的な領域。地球半径の10倍程度の大きさで広がっている。反太陽側は、より広大に広がっている。

＊おまけ