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English
I 「北極ヘイズが氷雲の生成に与える影響に関する研究」
海氷後退が注目を集めている北極域での気候変動に関連する課題です。
この研究課題では北極観測拠点スバールバルのニーオルスンに設置されたライダーとレーダのデータを利用し、
北極ヘイズが氷雲粒子生成を抑制する効果について研究します。北極ヘイズは北極の晩冬から早春にかけて、
中緯度から輸送された大気汚染性のエアロゾル粒子ですが、これが北極大気中で氷を生成する効果を抑制する、
とされています。しかし、観測的な実証はほとんどなく、この効果が実際に生じているか否かには大きな疑問があります。
ニーオルスンにはミリ波雲レーダとライダーが設置される予定で、ニーオルスンでの観測データを使い、
北極ヘイズが実際に氷粒子の生成を抑制しているかどうかを確認します。氷雲は降雪を通した脱水過程により対流圏の
水蒸気量への影響が大きく、従って氷雲生成抑制効果は北極ヘイズの氷雲生成による気候への間接効果に影響します。
なお本研究課題については科学研究補助金
「基盤研究A、H25〜H28年度、代表者:柴田」による研究が進行中です。
II 「熱帯対流圏界面付近のエアロゾルと巻雲に関する研究」
下部成層圏の水蒸気量は気候への影響が大きいことが知られていますが、その変動の原因は明らかになっていません。
対流圏の水蒸気は熱帯圏界面付近の低温領域で脱水されつつ成層圏に輸送されますが、脱水の結果
巻雲(氷雲)が生成します。熱帯対流圏界面付近の脱水は成層圏の水蒸気量を決定しています。
成層圏の水蒸気は1980年から2000年にかけて徐々に増加していました。このことが
地表面での高温化(温暖化)を増幅した
と指摘されています。成層圏水蒸気はその後2000年代に入って、一転、急減しましたが、上記のように、
このような水蒸気の変化がなぜ生じるのか、明らかになっていません。
成層圏の水蒸気量を決定しているのは熱帯対流圏界面付近での脱水のはずですので、水蒸気量の変化は脱水
過程の変化で説明できそうですが、脱水の詳細には、実は、不明な点が多いのです。
低高度(数km)に発生する雲は相対湿度100%を越えると直ちに発生し、雲の中での湿度は速やかに雲と平衡状態(相対湿度=100%)になります。
一方、高高度(〜18km)で低温(〜-90℃)の熱帯圏界面では相対湿度が100%を大きく越え、200%近くの過飽和が、なんと、
雲の中で観測されています。なぜこんな高い過飽和になるのか、まだ説明できてないのです。熱帯の過飽和がどの程度であるか
を知らないと、対流圏から成層圏に運ばれる水蒸気の量を知ることはできませんが、過飽和の程度は巻雲の特性で決まります。
さらに、熱帯の巻雲の特性を知るには巻雲生成の元となるエアロゾルの特性を知る必要があります。
この研究課題では、熱帯圏界面付近の巻雲とエアロゾル粒子の特性を、現地観測、データ解析、数値モデル計算など
により明らかにすることを目指します。
(a)現地観測:観測拠点のインドネシアのビアクにてライダーや気球を用い、巻雲・エアロゾル・水蒸気を観測します。
(b)データ解析:現地観測したデータや衛星データ、気象データなどからさらなる情報を得ます。
(c)数値モデル計算:エアロゾルから巻雲が生じ、水蒸気がどのよに変化するか、数値モデルを使って明らかにします。
(a)現地観測では、2週間程度のキャンペーン期間中、ライダーによって巻雲やエアロゾルの高度分布を連続的に求めます。
また小・中型気球を使ってエアロゾル、湿度、オゾンを観測し、巻雲、エアロゾル、湿度、オゾン、の高度分布を同時に求めます。
(b)のデータ解析ではコンピュータを使い、現地観測データや衛星データから
意味ある情報を導き出します。(c)数値モデル計算は、(a)や(b)で得られた現象を説明する仮説をたて、それを数値モデル
化し、数値モデル計算による数値実験によって検証します。大学院生の仕事としては(a)〜(c)を組み合わせたような
ものになるでしょう。
III 「衛星搭載ライダーを用いた上部対流圏、成層圏エアロゾルの研究」
下に紹介するIVの課題同様、下部成層圏の水蒸気量の変動、さらにはそれに伴う気候変動に関連する課題です。
90年代後半に我々が行ったチベットの首都ラサでのライダー観測や、その後の衛星搭載ライダーの観測で、チベット上空を中心とした南アジアの圏界面付近には、
この付近に存在する高気圧性の循環にトラップされた、エアロゾル濃度の濃い領域が存在することが発見されました。
現在、この高濃度エアロゾル領域の存在は、対流圏から成層圏への物質循環の観点から注目が集まっています。
この研究テーマでは衛星搭載ライダーのデータ解析から、この高濃度エアロゾルが対流圏から成層圏
への水蒸気を含む物質輸送にどのように役割をしているかを明らかにします。
IV 「北極成層圏雲に関する研究」
南極のオゾンホールは有名ですが、北極でも南極に比べて小規模ながらオゾンホールが発生しています。オゾンホールでのオゾン破壊は
極成層圏雲(略してPSC)と呼ばれる成層圏の雲の表面反応、および同じくPSCが表面に硝酸を付着して対流圏に落下し、成層圏から
窒素酸化物を除去する(「脱窒」とよばれる)過程によって進行します。南極の成層圏は冬季非常に低温になり対流圏同様(水の)氷の雲ができるのですが、
北極では氷ができるほど低温にはならず、硫酸と硝酸および水が主成分の雲が発生します。成層圏に常時存在する硫酸エアロゾルから北極成層圏雲が
生成する過程は南極に比べて多様ですが、十分明らかになっておらず、いろいろな研究が進められています。
この研究課題では北極エアロゾルの特性を衛星観測データ、現地観測データにより明らかにします。我々は1994年から10年間、北極圏の
スピッツベルゲン島でPSCのライダー観測を毎冬行ってきました。この観測で北極PSCのいろいろな特徴が明らかになりましたが、
いかんせん、一点観測であるため、場所による違いが大きい北極上空でのPSCの空間的な変化を捉えることができませんでした。
6年前ライダーを搭載したCALIPSO衛星が打ち上げられ、エアロゾルや雲を全球的に観測していますが、
この衛星は北極域もカバーしています。CALIPSO衛星による観測データを用いて海洋や陸地(特に山岳)の上空でPSCの発生がどのように
異なっているかを明らかにします。この研究により、北極域全体におけるPSC粒子の特性が明らかになり、結果として北極のオゾン破壊過程がより明らかになる
と期待されます。
なお、PSCの研究は、熱帯巻雲の生成と同様の低温における雲の生成過程の解明という、大気科学・気候科学の基礎的な問題の一つでもあります。
○ 博士課程教育リーディングプログラム(リーディング大学院)
「フロンティア宇宙開拓リーダー養成プログラム」担当教員、
リーディング大学院フロンティア宇宙への参加希望院生の受入可。