中性子のエネルギー・方向を測定する仕組み



乗鞍の64平方メートル太陽中性子望遠鏡の写真。

ここでは、太陽中性子検出器が実際にどのようなものであるかをお見せして、 中性子のエネルギーと方向がどうやって測定されるのかを説明します。写真は、 東大宇宙線研究所乗鞍観測所内に設置されている64平方メートルの太陽中性子 望遠鏡です。世界7箇所の観測地点に設置された太陽中性子検出器の中では最大面積を 誇り、中性子ネットワークの要となっています。

中性子に限らず放射線は、物質との相互作用を通じて電気信号として検出します。 中性子そのものは電荷を持たないため、電気信号として検出するためには、 検出器の中で物質との相互作用を通して 電気を持った粒子に変換する必要があります。その様子を見るために、乗鞍の 太陽中性子望遠鏡を写真ではなくて断面模式図で示したのが下の図です。



乗鞍の太陽中性子望遠鏡の断面模式図。

乗鞍の太陽中性子望遠鏡はシンチレーション検出器(scintillator)と、比例計数管 (proportional counter)とから構成されます。各比例計数管は断面10cm×10cm, 長さ8mの鉄角パイプであり、中にアルゴン90%+メタン10%のPRガスと呼ばれる 混合気体が入っています。パイプの中心部には100ミクロンの細いタングステン ワイアが張ってあり、パイプとの間に 2,600ボルトの高電圧がかかっています。 この管内を荷電粒子が通過すると電気信号が得られる仕組みになっています。 検出器の上・横を囲む比例計数管を 中性子が通過した場合には、信号は得られません が、陽子や電子等は荷電粒子なので、信号を出します。 このことを利用して、 中性子と荷電粒子を区別することができます。また、ガンマ線が上から降ってきた 場合、ガンマ線も中性なので比例計数管内で信号は出さないのですが、その上に 置いてある鉛(lead)を通過する際にほとんど電子+陽電子に 変換されてしまうため、これも中性子と区別することができます。



中性子がシンチレーション検出器中で信号を出す様子。

比例計数管では何の信号も出さなかった 中性子(neutron)は、シンチレーション 検出器の中で相互作用して上の図のように陽子(proton)に変換されます。 変換された 直後から陽子はそのエネルギーを失いながら、シンチレーション光という光を 出します。このシンチレーション光の数は、陽子の失ったエネルギーに比例するので、 もしもシンチレーション検出器の中で陽子が全てのエネルギーを失えば、陽子の エネルギーを知ることができます。陽子の得るエネルギーは、もともとの中性子の エネルギーが高いほど、やはり高くなるので、陽子のエネルギー分布を調べる ことにより、中性子のエネルギー分布を知ることができます。 上の写真は、乗鞍ではなくボリビアの チャカルタヤ山にあるシンチレーション検出器内部を示したもので、世界の太陽 中性子検出器には同じものが用いられています。シンチレーション光は、 光電子増倍管に集められ、そこで電気信号に変換されます。シンチレーション光が 光電子増倍管の光電面に当たると、20%くらいの確率で電子が1個飛び出すのですが、 その電子は、光電子増倍管の中で、10万個から、1000万個くらいに増幅され、 電気信号として取り出すことが可能となります。

中性子から変換された陽子ですが、エネルギーが低ければ、シンチレーション 検出器中で全てのエネルギーを失って止まってしまいますが、高エネルギーの ものは下層に通り抜けます。そこには、まず、比例計数管80本からなる層が、 管の向きを90度ずつ井桁に違えて4層あります。この比例計数管4層の各層でどの 比例計数管を通過したかを測定すれば、 陽子の運動方向を知ることができます。 陽子の方向は入射中性子の方向と必ずしも一致はしていませんが、太陽方向からの 中性子が他方向と比べて多い場合には、陽子の到来方向も太陽方向が多くなります。 4層の比例計数管の下には木の吸収層を3層はさんで比例計数管がさらに2層ずつ、 計6層並べられています。陽子は木の中でエネルギーを失っていくので、より下層の 比例計数管で検出された陽子はよりエネルギーが高いことになります。 陽子のエネルギー分布は入射中性子のエネルギーが高いほど、高い分布を示すので、 どれだけエネルギーの高い中性子がやってきたかを知ることができるわけです。