北欧での研究生活 by Y. Ogawa (Feb. 5, 2003)

  「北欧の大学都市」という呼び名が相応しいスウェーデン・ウプサラで研究を始めてから、はや 10ヶ月が過ぎました。 ウプサラ はスウェーデンの首都ストックホルムから約 100 km北に位置し、1477 年に創立された ウプサラ大学 を中心に栄えてきた街です。私は 名古屋大学太陽地球環境研究所 で博士(理学)を取得後、 スウェーデン国立宇宙物理研究所(IRF)ウプサラ部門 にてポスドク研究員として働いています。太陽から運ばれる粒子や電磁エネルギーがどのように磁気圏や極域電離圏に影響を与えているかを総合的に理解するために、 EISCAT レーダーCLUSTER衛星 等の複数の観測機器を用いた研究・解析を、ここウプサラで行なっています。今回この場を借りて、この研究所の特色を中心に紹介したいと思います。

  IRF の 本部 はキルナにあり、場所により 4 つの部門( キルナウメアウプサラルンド )に分かれています。 IRF は過去 50 年間に、多数の観測用ロケットや Viking 衛星Freja 衛星 、現在では CLUSTER 衛星 や土星探査機 Cassini 、彗星探査機 Rosetta といった様々な宇宙科学ミッションに関わってきています。私が所属している IRF ウプサラ部門 には、スタッフと学生を合わせ 約 60 人在籍しています。スタッフや学生は非常に国際色豊かで、半数以上が地元のスウェーデン以外の方々です。具体的には、フランス、ドイツ、イタリア、ウクライナ、カナダ等から大学院生として、ここに学びに来ています。ウプサラ部門内ではさらに 3つのグループに分かれていますが、研究テーマがグループ間で共通することが多いため、所属グループをあまり意識することなく共同で研究が行なわれています。特に CLUSTER 衛星を用いた研究をしているスタッフや学生が多いため、(私も CLUSTER 衛星を中心に使って研究している一人として、) CLUSTER衛星のデータやその解析結果について色々と議論ができる恵まれた環境であると思っています。

  IRFウプサラ部門は約 3 年前にウプサラ大学の Angstrom* Laboratory に移転しました。ちなみにこの建物の名前は、ウプサラにも住んでいたAnders Jonas Angstrom (1814-1874) とその息子 Knut Angstrom (1837-1910) に由来します。Anders Jonas Angstrom は、長さの単位 1 A (Aの上に°、オングストローム) = 0.1 nm でも有名ですね。この建物はウプサラ市街から約 2 km 南に位置し、とても静かな環境です。北欧の住宅と同様に、自然の木をふんだんに使い、そして空間的にゆとりをもって作られています。その中には宇宙物理や物性物理等の物理に関する研究室が集まっており、 IRFウプサラ部門は 4 階と 5 階の一角を利用して研究や装置開発を行なっています。

  ウプサラ大学では毎年ノーベル賞授賞式の直後に受賞講演が行なわれます。 Angstrom Laboratory 内では物理学賞受賞者の講演が昨年の 12 月に行われ、受賞者の小柴先生も講演をなさいました。小柴先生はウプサラ大学の学生を対象に、「カミオカンデによる観測」や「ニュートリノ振動」について、アニメーションも駆使して分かりやすく説明していました。講演ではさらに国際共同観測の提案もなさっていました。具体的にはニュートリノを検出する装置をスウェーデンにも作ることにより、観測機会を増やす計画で、その装置の名前を日本の「KamiokaNDE(カミオカンデ)」にちなんで、「SwedeNDE(スウェデンデ)」と既に決めて名付けていました。

  国際共同観測と言えば、東山第2部門の方々や私も利用している「 EISCATレーダー 」の観測は、まさにそれに当てはまります。日本と欧州の研究所・研究者の協力により、スウ゛ァールバル諸島ロングイヤビンに ESR 第 2 アンテナ が新たに建てられました。現在では複数の EISCAT レーダーを用いた新たな研究結果が、世界中の研究者により数多く発表されています。世界中の人々と協力して観測や研究を進めることは、今後益々盛んに、そして重要になってくるだろうと身をもって感じています。

* 「Angstrom」の実際の表記は、「A(の上に °)ngstro(の上に ¨)m」となります。

IRF_summer IRF_colleagues
写真1: 夏のAngstrom Laboratory 写真2: 研究所の同僚とAngstrom Laboratoryの屋上にて。
IRF_winter IRF_U_group
写真3: 冬のAngstrom Laboratory 写真4: 私が所属するグループのメンバーの方々とともに。

Down the White-Bear Hole にもどる