各種出版物に掲載された記事
私たちは主に観測に基づいて研究を進めており、その中心的な観測装置は、欧州非干渉散乱レーダー(EISCATレーダー)と呼ばれる地球物理用の世界最高水準のレーダー群です。そのパラボラアンテナは口径32 mと42 m、半シリンダー型アンテナは長さ120 mにも及ぶという巨大なもので、最高出力は2.4 MWです。このEISCATレーダーは、日本と欧州6ヵ国(イギリス、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)の国際協同により運営されており、レーダーは、ノルウェーのトロムソ(北緯69.5゜)、スウェーデンのキルナ(北緯67.9゜)、フィンランドのソダンキラ(北緯67.4゜)、およびスヴァールバル諸島ロングイヤービエン(北緯78.2゜)に設置されています。トロムソ、キルナ、ソダンキラはオーロラ帯の真下に位置し、もっともオーロラ観測に適したところです。またロングイヤービエンは太陽から来るプラズマ粒子が直接磁気圏に流入する“カスプ域”と呼ばれるところにあります。
私たちは、日本の中心的研究グループとしてEISCATレーダーを用いた特別実験の実施、観測データの収集・解析などを行っています。さらにEISCATレーダー観測と組みあわせて、人工衛星・ロケットなどの飛翔体や、他のレーダー(分反射レーダー)、光学機器などとの同時観測、総合的な観測を行い、物理現象の理解に取り組んでいます。
![]() トロムソにあるVHF(左)とUHF(右)レーダー |
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![]() トロムソUHFレーダーとオーロラ |
EISCATレーダーを用いて、地磁気擾乱時に特に顕著なオーロラ電流を定量的に知ることができます。あわせて得られる電気伝導度と電場を用いて、オーロラ電流の研究を進めています。さらに、磁気圏-電離圏結合に重要な沿磁力線電流の特性の研究を行い、極域電離圏での3次元電流系の研究を進めています。これら観測的な手法に加え、シミュレーションを用いて、極域電流系の研究も進めています。特に、磁気圏から電離圏に電子が侵入する場合に、どのような電流系が作りだされるか、電子とイオンの輸送により電離圏でどのようなプラズマ分布が作られるのか、それに伴って電場がどのような作用をするのかをシミュレーションにより評価し、観測から得られる結果とともに、3次元電流系の物理機構を理解しようとしています。
高層の大気では、海の潮の満ち引きと同じように、1日や半日で周期的に風速・温度などが変動する現象があります。これを大気潮汐とよんでいます。トロムソおよびロングイアビンのEISCATレーダーを利用して、下部熱圏において大気潮汐波が緯度によってどのように変化するかを研究しています。さらに、他のレーダーのデータも使って、全地球的な大気潮汐波の緯度による変化の原因解明を進めています。また、アメリカや日本の他機関の研究者との共同研究により、大気モデル、大気大循環シミュレーションとの比較研究も進めています。
私たちはEISCATレーダーを用いて、酸素イオンが主なイオンである高度400 km付近で起きているイオン上昇流の高度、時間変動を観測し、同時に得られたプラズマ温度、密度などのデータを使って、プラズマの流出と加熱の機構が何であるのかを探っています。