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(NASA提供) |
太陽からは様々なエネルギーが放出されています。太陽風という高温のプラズマの流れはその一つです。太陽風は磁場をもっていて、やはり磁場を持つ地球磁気圏に到達すると、太陽風のプラズマ粒子や電磁気的なエネルギーの一部が磁気圏に浸入します。その多くは極域と呼ばれる高緯度帯の超高層大気に流入します。これによって引き起こされる現象の一つがオーロラです。私の研究課題は、極域に流入するこのようなエネルギーによって地球大気(特に極域)にどのような変化が現れるのか、また、その発生メカニズムは何なのか、観測・解析を通して理解することです。 |
地球半径(約6,400 km)に対し大気の厚みはせいぜい1,000km程しかなく、空気のほとんどは対流圏・成層圏に分布しています。私が研究対象としている超高層大気は、その上の非常に希薄な領域であり、空気の密度で比較すると人間活動への影響は非常に小さいように思えます。しかし、多くの衛星が高度400km付近を飛翔していることからも分かるように、経済活動範囲は次第に高い高度へと拡張しています。超高層大気の基礎的な知識を持つことの重要性は今後ますます高くなるでしょう。 このような経済活動への影響も重要ですが、一方で、超高層大気は物理学を応用するフィールドとして非常にユニークな場所であり、その意味で純粋に学術的な興味がそそられる領域でもあります。 超高層大気の粒子は一部が電離する弱電離プラズマです。即ち、イオンや電子がある程度存在するものの大半は電離していない、中性の粒子です。プラズマは電磁気的な影響を直接受けますが、中性の粒子はそうではなく、コリオリ力や圧力勾配など他の力が主に作用します。しかしプラズマと中性粒子は独立に存在するのではなく、衝突を繰り返し相互作用(何かの理由でプラズマが変化すると、中性粒子との衝突を介して、中性粒子もその変化の影響を受ける。さらにその変化した中性粒子は他のプラズマと衝突してプラズマの状態を変化させる、ということを繰り返す。先に中性粒子が変化して相互作用が発生する場合もある)しています。このような系は、中性粒子のみで構成されている対流圏や成層圏、完全電離プラズマの磁気圏では再現されません。特に極域は太陽風起源の電磁気的エネルギーがより多く注入される領域であるため、この相互作用がより活発に行われます。右図は大気変動を表す模式図ですが、極域にはオーロラを始め、それに伴い発生する大気の波など様々な変動が大きな振幅で発生します。このような現象を観測し、物理学を応用しながら解析・研究をしています。 |
![]() EISCATレーダー協会提供 |
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研究課題の一部として、左図はオーロラに伴うエネルギー注入と熱圏大気変動を表しています。以下、概略を説明します。 オーロラ(aurora)は高度100-300kmに現れる大気の発光現象です。励起した酸素や窒素が低いエネルギー準位に遷移するときにエネルギーを光として放出します。ガスを励起させる元のエネルギーは、磁気圏で加速された電子が大気粒子と衝突することによって与えられます。この電子(即ち負に帯電した荷電粒子)は地球磁力線に沿って移動するので、磁力線に沿って流れる電流が存在していることを意味します。これを「沿磁力線電流(field-aligned current)」と言います。オーロラが発生している場所では、電子が磁力線に沿って下向き(地球方向)に移動しているので、電流は逆に上向きに流れていることになります。これを「上向き沿磁力線電流(upward field-aligned current)」と言います。 |
オーロラの脇に電離圏の電子密度(electron density)が周辺よりも低い領域が発生することがあります。そこでは磁力線に沿って電離圏の電子が上向きに移動して磁気圏に流れ出ています。これが下向き沿磁力線電流(downward field-aligned current)です。電流は回路として閉じていなければならず、上向き・下向き沿磁力線電流を電離圏で閉じるためにペダーセン電流(Pedersen current)が必要となり、それを作るために磁力線に垂直方向の電場(electric field)が磁気圏から電離圏に印加されます。この電流を担う荷電粒子はイオンです。イオンは周辺の中性の粒子と衝突しながら移動する、即ち、抵抗の中を電流が流れることになり、熱が発生します。これがジュール加熱(Joule heating)という現象です。これ以外に、オーロラを発生させる降込み電子が直接大気を加熱する粒子加熱(particle heating)もあります。これらは熱圏大気を温め、圧力勾配を変化させます。それによって風や温度が変わります。このような定性的な理解は最近の観測・数値計算研究によってかなり進歩しました。しかし、磁気圏から注入されるエネルギー量に対し、熱圏大気がどの程度変化するのか、といった定量的な理解にはまだまだ研究が必要な状態です。
ここまでの話は上(磁気圏)から熱圏・電離圏への影響に着目していましたが、熱圏・電離圏には下(対流圏・成層圏・中間圏)からの影響もあり、現象をより複雑にしています。下からの影響の一つが大気重力波です。温度の高度勾配が負から正(高度上昇とともに温度が減少する状態から増加する状態への変化)に変化する中間圏界面と呼ばれる高度付近で、重力波はそれ以上高い高度へ伝搬できなくなり、砕波と呼ばれる現象が発生し、波が崩れてしまいます。その時、波の運動量が周辺大気に輸送され、大気を加速/減速させます。その結果、この高度領域では夏半球から赤道を越えて冬半球に向かう大気の子午面循環が生じます。そしてその循環に伴い夏半球と冬半球の極域の中間圏にそれぞれ上昇流と下降流が発生し、断熱膨張・圧縮によって、夏期に冷却、冬期に加熱が起こります。その影響は、太陽光照射による大気温度の緯度勾配を中間圏では逆転させてしまうほど大きなもので、中間圏界面の温度は冬より夏の方が低くなります。このような現象を引き起こす重力波を全天カメラや各種レーダーを用いて観測し、上で記したオーロラの影響も考慮しながら研究を進めています。
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![]() ![]() EISCATレーダーのような非干渉散乱レーダーで下部電離圏高度(95-130 km)を観測していると、数分スケールの周期をもつイオン速度の振動がしばしばとらえられる。図aはその例であり、高度109.9kmのイオン速度の鉛直成分(上下方向のイオン運動)に5時 間に渡り細かい振動が発生していたことが分かる。この現象は地磁気活動が活発になると出現しやすいことがこの研究で明らかにされた。このことは磁気圏から 高緯度電離圏・熱圏に注入される電磁気エネルギーを理解する上で重要な現象である。そこで、電磁気エネルギー注入において重要な役割を担う磁気圏の電場に 振動が存在する場合を想定し、下部電離圏のイオン速度の分散を理論計算した(図b)。この理論計算値と観測データ(白抜きの△)を比較したところ、非常に良い一致を示したことから、観測されたイオン速度の振動は磁気圏電場に由来することが示唆された。 掲載論文:Oyama, S., A. Brekke, T. T. Tsuda, J. Kurihara, and B. J. Watkins, Variance of the vertical ion speed measured with the EISCAT UHF radar in the polar lower ionosphere at Tromsø, Norway, J. Geophys. Res., 116, A00K06, doi:10.1029/2010JA016129, July, 2011. ![]() |
![]() ![]() 欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーでより高い精度の電離圏物理量を測定するための受信機の開発と、既存データを用いた解析を行った。受信機は、EISCAT UHFレーダーの既存システムに接続され、IF2アナログ信号とTxトリガー信号を取得した。これに加えGPSアンテナをコントロールビルの屋上に設置し時刻情報を取得した。既存システムに接続したときの写真を左図に示す。まだ幾つかの開発項目が残されているが、高い時間分解能で電離圏データを取得することに成功している。右図はオーロラ粒子降込み時に時間分解能0.71秒で観測された高度110kmでの受信強度の時間変化である。オーロラ粒子による急激な電離と再結合に伴う強度の減衰過程をはっきり見ることができる(00:10:00 UT前に見られる急激な増加部分)。 ![]() |
![]() ![]() パルセーティングオーロラ(脈動オーロラ)はオーロラブレイクアップの後に数時間にわたり発生するオーロラの一種で、周期数秒程度で点滅することが特徴である。典型的なオーロラ現象の一つであり、数10keVのエネルギーを持つ電子の降込みによって電離圏電子密度や電気伝導度が高くなる傾向にある。一方、強い電場は伴わないことが多く、電導度の割には流れる電離圏電流量は小さく、ジュール加熱率も低い。しかし、2009年1月にノルウェー北部で実施したDELTA-2 (Dynamics and Energetics of Lower Thermosphere in Aurora-2)キャンペーン中に発生したパルセーティングオーロラをファブリペロー干渉計(波長557.7 nm:主に下部熱圏高度を観測)、全天カメラ、EISCATレーダーで観測したところ、オーロラ中に出現した周辺より暗い部分で数10m/sを 超える上下運動が観測された。極域下部熱圏風の加速を発生させる有力なエネルギー源は、磁気圏起原の磁力線に垂直な電場が考えられてきた。しかしそのよう な電場はこのイベントでは弱く、本観測結果はこれまでの説明とは異なる物理機構の存在を示唆している。本研究では、パルセーティングオーロラを発生させる 周期的な粒子降込みによって振動性分極電場が電離圏内で発生し、ジュール加熱率が増幅されたという仮説を提唱した。 掲載論文:Oyama, S., K. Shiokawa, J. Kurihara, T. T. Tsuda, S. Nozawa, Y. Ogawa, Y. Otsuka, and B. J. Watkins, Lower-thermospheric wind fluctuations measured with an FPI in pulsating aurora at Tromsoe, Norway, Ann. Geophysicae, 28, 1847-1857, 2010. ![]() |
![]() ![]() ![]() グリーンランドにあるソンドレストローム非干渉散乱レーダーと、れいめい衛星に搭載された高感度カメラを用いて、オーロラアーク周辺の電離圏を撮像することに成功しました。オーロラアークは、高いエネルギーを持った電子が磁力線に沿って磁気圏から高度100kmく らいまで降り注ぐことによって生まれます。その電子の移動は、上向き沿磁力線電流と呼ばれています。キルヒホッフの法則として知られているように、電流は 閉回路を形成すると考えられており、下向き沿磁力線電流を含めた両沿磁力線電流を電離圏高度でつなぐ水平電流(ペダーセン電流)が発生していると考えられ ています。ペダーセン電流が電離圏に発生すると、そこにある中性大気が抵抗の役割をして熱が発生します。これをジュール加熱といいます。加熱によりイオン 温度が上昇します。一方、下向き沿磁力線電流は、上向きに移動する電子が担います。その結果、電離圏の電子密度が減少します。そのような一連の現象の微細 構造が、図に示すようにレーダーとカメラによってイメージングされました。また詳細な解析によって、中性大気にもオーロラアークによって微細構造が形成さ れていた可能性が示唆されました。 掲載論文:Oyama, S., T. T. Tsuda, T. Sakanoi, Y. Obuchi, K. Asamura, M. Hirahara, A. Yamazaki, Y. Kasaba, R. Fujii, S. Nozawa, and B. J. Watkins, Spatial evolution of frictional heating and the predicted thermospheric wind effects in the vicinity of an auroral arc measured with the Sondrestrom incoherent-scatter radar and the Reimeisatellte, J. Geophys. Res., 114, A07311, doi:10.1029/2009JA014091, 2009 ![]() |
名古屋大学太陽地球環境研究所 電磁気圏環境部門
大山伸一郎 助教