ブラックホール長年の謎"ジェット現象"の噴出条件を観測的に明らかに!

本研究成果のポイント。© 川口俊宏(富山大)&山岡和貴(名古屋大)
本研究ではブラックホール連星XTE J1859+226を1999-2000年に観測したX線データと電波データを組み合わせ、突発的
ジェットがいつ噴き出るか?という問題を観測的に明らかにしました。ジェット噴出のメカニズムは長らく謎となって
いました。日本物理学会が2017年に発行した物理学70の不思議の中にも記述があるほどです。
ブラックホール(BH)連星は、ブラックホール(BH)と太陽のような恒星との連星系でその重心をお互いに回っています。
ブラックホール周辺には伴星からのガス流入によって、ガス円盤(降着円盤)が形成され、重力エネルギーが解放され
円盤の内側では100-1000万度の高温になり、黒体放射で電磁波であるX線を出すと考えられています。この降着円盤の
内縁半径、つまり、降着円盤がブラックホールのどこまで近づいているか?という距離、はX線スペクトルの解析から
求めることができます。過去の観測から、この内縁半径はX線強度が大きく変わってもほぼ一定に保たれることが知られ
てきました。研究者はこれが最も内側で安定にケプラー運動できる軌道(=最内縁安定軌道;The Inner-most Stable Circular
Orbit: ISCO(イスコと発音)と呼ぶ) であると考えてきました。
今回のこの天体を選んだ理由はジェット噴出が少なくとも5回起きていると報告があり(Brocksopp et al. 2002)、X線で
降着円盤の状態を調べつつ、ジェットがいつ出たのか詳細に調べられるためです。この天体は1999年10月9日にX線で増光
が確認されNASAのRXTE衛星に搭載された全天モニタ(ASM)により発見された新天体になります。観測初期(発見約30日以内)
は内縁半径が大きく変化しており、発見後約30日以降は約64 kmで一定となることが分かりました。この天体も最内縁安定
軌道(ISCO)に落ち着くことがわかります。しかも、よく見ると内縁半径はISCOに近づいたり、離れたりしているのです。
さらに面白いことに遠くに円盤がある状態からISCOに急速に近づく時に電波強度が上がっており、ジェット噴出と相関して
いるようなのです。これまで"ジェットライン"と呼ばれるスペクトルの形状とX線強度のダイヤグラム(Hardness-Intensity
Diagram: HID)の上で"ジェットライン"が存在し、そこを右から左に横切るとジェットがおきると言われてきましたが、あく
まで感覚的な指標にすぎませんでした。今回の指標は物理的にも意味があり、指標としても明確なため、突発的ジェットが起
きる時期を正確に予兆でき、ジェット瞬間を捉えられるかもしれません。今後は他のブラックホール連星や超巨大ブラックホ
ールが存在する活動銀河核にも応用し、ブラックホールの統一的描像に迫りたいと思います。
1999年10月9日からのX線観測で求めたパラメータと電波強度の時間変化。上から順に内縁半径(km)、
内縁半径の時間変化、短時間変動率(%)、スペクトルの硬さ、電波強度(mJy)。2段目の内縁半径の
時間変化で○になっている部分が近付いている時間帯、赤で示した下向き矢印がジェット噴出が示唆
される時間帯。 。
本研究で明らかになったブラックホール近傍からのジェット噴出の条件を示すムービー。降着円盤の内縁が
最内縁安定軌道に急速に近付く時にジェットが出る。
© 川口俊宏(富山大)&山岡和貴(名古屋大)
◎ブラックホールジェット動画(日本語高解像度版)
◎ブラックホールジェット動画(英語高解像度版)
詳細は日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan: PASJ)77卷2号に掲載された論文や
下記のプレスリリースをご覧ください。論文(アクセス限定)はこちら。また論文になる前のプレプリントはこちら。
本研究は富山大学川口俊宏教授他アメリカ・イタリア・ロシアの研究者との国際共同研究による成果です。
名古屋大学プレスリリース(日本語版)
名古屋大学プレスリリース(英語版)
富山大学プレスリリース(日本語版)