はじめに

アメリカ航空宇宙局(NASA)はアポロ計画から約50年が経過した現在、新たにアルテミス計画を高らかに 掲げ、月面着陸・活動、そして、その基盤をもとに火星へと人類の活動の場を広げ ようとしている。我が国もこの計画に参画することが政府の合意として決定しているが、 具体的にどういった形で国際貢献するのか決まっていない。

その一つとして考えられるのが、月や火星のどの場所に、どの深さに、どのくらいの量の水資源 が存在しているかということである。水は電気分解して水素と酸素となり、エネルギー源や生きて行く上での 必需物質となることから大変重要である。アメリカやロシアのグループがすでに月の北・南極の永久影の領域に集中しているとの示唆を 与えているが、その水資源の詳細な在処について競争が始まっている。 様々な検出方法の中でも中性子やガンマ線といった放射線を用いる方法は、降り注ぐ宇宙線が岩石などの鉱物と反応して生じた中性子が 地表面へと出て来る時に水(厳密には水素原子)があると、効率よく減速して、高速の中性子のフラックスが減少するというものである。 また、減速した中性子が水素原子に捕獲されて特有のガンマ線を出すというプロセスもある。こうした原理によって、 地中1 m程度の水資源の情報が得られるなどその他の手法と相補的であるが、我が国では中性子・ガンマ線検出技術は 他国と比べて遅れをとっている。このような状況において、革新的な中性子・ガンマ線センサを早期に開発して、 超小型衛星や探査車(ローバー)へ搭載することを目指すのが本事業である。

本事業は、2021年4月から2023年3月まで行われた。 第2章で研究背景、第3章で研究内容、第4章で研究成果について述べる。