ライダーテスト観測成功!

野澤悟徳

1 はじめに

20091116日(月)から20日(金)までの予定で、ライダーチームは和光市の理化学研究所(理研)に集結した。名古屋大学からは、野澤、川端キャプテン、津田参謀、そして山崎技術職員が参加。信州大学からは、川原准教授と学生2名。理研からは斎藤研究員、そして、メガオプトから開発担当者。今回の最大の目標は、これまで独立して開発してきたライダーシステムの各パーツを、統合して機能させ、大気温度導出が可能な高度プロファイルデータを取得し、ライダーシステムとして性能評価を行うことである。



2 ナトリウムライダー

 ここ2年、北極トロムソにて下部熱圏・中間圏の大気温度測定を目指して、ナトリウムライダーシステムの開発を進めている。ライダーシステムは、レーザー発振装置(メガオプト社製高出力レーザー発振装置)、波長制御装置(シーダーレーザー部)、そして受信装置(望遠鏡、受信機、制御PC)により構成されている。開発は、それぞれのパーツごとに独立して行ってきた。そしていよいよ、これらを統合し、ライダーシステムとして機能するか、テスト観測を行う時が来た。



3 シーダーシステム

 レーザー発信装置からは、高出力(2 W以上)の波長589 nmのレーザーパルス光が発振される。ネオジウムヤグレーザーから発振される2波長(1064 nm1319nm)の光を増幅して、それらの和周波をとることにより、波長589nmのレーザーパルスビームを発生させる。ナトリウムライダーとして温度観測に用いるためには、高精度(pm以下)の波長制御が必要である。大気温度を導出するためには、ナトリウム散乱スペクトルのピーク波長(589.1593 nm付近)と極小になる波長(589.1583 nm付近)2波長を交互に観測する必要がある。両者の強度比から温度を導出しているため、それぞれにおける観測精度とシステムの時間的安定性が重要である。1pm以下での波長制御を行うために、波長制御装置が必要である。シーダーレーザーから、波長1064 nm1319 nmpm単位で制御したレーザービーム光を発振し、レーザー発振装置に注入し、pm単位での制御した強力な光の発振を実現する。



        波長制御装置と合体した、レーザー発振装置


4 どこから打ち上げる?

現在レーザー発振装置は、シーダーレーザーと組み合わせた実験を、理研の実験室にて進めている。テスト観測では、レーザービームを上空に打ち上げないといけない。いろいろ検討した結果、実験室で発生させたレーザー光を鏡で誘導して、廊下の天井付近を通し、窓から外に誘導し、中庭から打ち上げることにした。このへんは、理研の斎藤先生に大変お世話になりました。発生させたレーザー光は、2 W程度と強力であり、注意が必要である。人の目に入ったら、失明する危険ある。



5 実験初日

1116日(月)曇り模様であったが、夕方から晴れ間もみえる。暗くなる前に、中庭に望遠鏡を設置し、廊下に机を置き、受信装置の準備を進める。万が一、雨が降った場合は、即座に室内に望遠鏡関係を移動させないと行けないので、目が離せない。そして、午後7時すぎ、ついにレーザー光は、熱圏へめがけて打ち上げられた。川端キャプテン&津田参謀が、望遠鏡の視野合わせを行い、上空からの散乱光をキャッチする。準備完了後いよいよ受信開始。見事に、受信に成功し、高度90km付近のナトリウム層からの散乱光が確認できた!やった!今回のレーザー光の繰り返し周波数は、1 kHzである。すなわち、1ミリ秒毎にデータを取得している。漏れなく正しく受信できるかの確認は、今回のcheckポイントの1つ。無事観測でき、設計者・開発者のキャプテンの顔に笑みが浮かぶ。次の目標は、波長制御を行い、温度導出可能なデータを取得することだ。



     窓から出た光を上空に打ち上げる。        上空に打ち上げられたオレンジの光

     望遠鏡の視野を調整                データがとれた!ほっとする一同。

6 天候

 実験2日目は、あいにくの雨。。。この日は、名古屋チームは、作戦会議にて夜を楽しく過ごし、英気を養った。天気予報によると、木曜日も天気は悪そう。チャンスは、1118日(水)の夜しかない。シーダーによる波長制御の調整も終わり、この日は、いよいよ(マニュアルにて)2波長のスイッチを行い、本格的な観測を行う。実験開始、信号がうまく受からない。。。おかしい。。。どうしてか。いろいろ悩んだが、トリガー信号がうまくいってなかったことを突き止め、問題解決。そして、波長制御は順調に行うことができ、ついに2波長による観測ができた!すばらしい。深夜過ぎには、天気が悪くなってきたので、観測を中止した。ついに、観測データがとれたことが、今回の最大の成果だ。



  手前が望遠鏡、奥が打ち上げ台。           受信データを確認!

7 これから

 ナトリウムライダーがシステムとして稼働し、観測データが無事とれたことは、最大の成果であった。ほっと一息という感じ。しかし、我々が目指しているのは、安定した長期間運用である。まだまだ多くの改良が必要である。次は、20102月末のトロムソ設置に向けて、ラストスパートです。みなさんがんばりましょう!

Back to Down the White-Bear Hole