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所長メッセージ

宇宙地球環境研究所 所長 町田忍
宇宙地球環境研究所 所長 町田忍

名古屋大学宇宙地球環境研究所は、宇宙科学と地球科学を結び付ける全国で唯一の共同利用研究所として、地球・太陽・宇宙を1つのシステムとしてとら え、そこに生起する多様な現象のメカニズムや相互関係の解明を通して、地球環境問題の解決と宇宙に広がる人類社会の発展に貢献することをミッションに掲げ て活動しています。

ご存知のように、地球は太陽の周りを公転していますが、太陽は、地球システムを駆動する大部分のエネルギーを供給し ており、可視光や紫外線などの電磁波あるいはプラズマ粒子(電子・イオン)を絶えず放出しています。しかし、その太陽は、さまざまな時間スケールで常に変 動しています。太陽面で起きるフレアーやコロナ質量放出などの短時間の爆発的な現象は、地球で起きる電磁的な現象と密接に関連しています。例えば、地球の 磁気嵐を引き起こしたり、高エネルギー粒子を放出して人工衛星の機能障害をもたらしたり、船外で活動する宇宙飛行士を放射線被曝させてしまうことが知られ ています。また、黒点数の変化を伴う11年周期の変動や、さらに長い周期を持った変動も知られています。後者については、例えば西暦1600年代のマウン ダー極小期と呼ばれる期間は、太陽の活動が70年あまりに亘って非常に低下した時期であり、同時に地球が寒冷化したことが知られています。過去の太陽の変 動を調べるためには、樹木の年輪の中に含まれる炭素の同位体(14C)の量を計測する年代測定法の技術が有効です。また、現在の太陽の姿を知るためは、人 工衛星による詳細観測が威力を発揮します。さらに、太陽の内部や地球の気象現象を解明するためには、先進的なスーパーコンピューターを用いた数値シミュ レーションが有効です。過去や現在を忠実に再現できるように数値シミュレーションをチューンアップすることによって、精度の高い太陽活動と気象現象の未来 予測を行うことが可能となります。そのような分野横断的な融合研究を進めることによって、社会に貢献することを目指しています。
また、本研究所では、CHIME(チャイム)法と呼ばれる新しい年代測定法を岩石に適用することによって、数百万年から地球創成時までの長い地球史を調べ ることができます。したがって、地球から太陽、宇宙に至る空間軸の広がりに加え、46億年にわたる地球史のあらゆるイベントから考古学的試料,文化財や近 現代の文物までを対象とした幅広い時間軸を持った研究を進めることによっても社会貢献を行っています。

 ところで、太陽から放出されるプラズマ粒子の流れは太陽風と呼ばれていますが、太陽風が地球の近傍にやって来る と、地球の磁場の影響を受け、地球から出た磁力線を包み込みながら夜側に流れていき、磁気圏を形成します。磁気圏の中には、いろいろなエネルギーのプラズ マ粒子が存在しており、特に、地球の周囲を取り巻くエネルギーの高い粒子で構成される領域は放射線帯と呼ばれています。先ほど説明した太陽フレアーやコロ ナ質量放出が発生すると、オーロラが活動的になり、放射線帯が発達します。放射線帯が発達した場合にも、人工衛星の機能に障害を与えたり、航空機の乗員を 放射線被曝させる可能性が高まります。太陽フレアーやコロナ質量放出の発生、磁気嵐、放射線帯の発達などを予測する宇宙天気予報と呼ばれる防災研究にも、 本研究所は取り組んでいます。

 一方、太陽から放出されるX線や波長の短い紫外線は、私たちにとって有害ですが、電離圏やオゾン層などの地球の超 高層・中層大気がそれらの殆どを吸収して地上に届くのを防ぐ役割を担っています。また、可視光や波長の長い紫外線も、大気を通過する途中で吸収あるいは反 射され、一部が地表に到達します。その過程は温室効果と深く関わっていて、地球の表層のエネルギー収支を考える上で重要です。その際、二酸化炭素などの温 室効果ガスやエアロゾル、さらにそれを核として形成される雲が重要な要素になってきます。さらに雲の発生は、降水を引き起こし、それに伴う水の循環は、陸 上植生や海洋生態系に大きく影響を与えます。また逆に陸上植生や海洋生態系も、気候や気象をコントロールしていることが知られています。集中豪雨や台風、 洪水など、水に関係する災害の頻発する場所がありますが、最近は、気候の変化によって、この水の循環が大きく変化しつつあるという見方もあり、その研究の 重要性が増しています。私たちは、これらの地球上での大気・陸域・海洋で起こる現象に関しても、現地観測・衛星観測・数値モデルなどを利用した分野横断的 な融合研究を推進し、その成果を防災や環境保全に役立てながら社会貢献を行っています。

 さらに、近年では、雲の形成には宇宙線が重要な働きをしている可能性も指摘されており、地球を取り巻く空間で起こ る現象のみならず、宇宙の彼方で起こる物理過程も当研究所の重要な研究テーマです。このように、宇宙から地球までを一つのシームレスな系として理解するこ と、その中で起きる基本的な物理・化学素過程を、様々な時間・空間スケールで理解すること、そして、その知見を防災や環境保全などの形で実社会に役立てる ことが当研究所のミッションです。当研究所の研究領域は、太陽と地球、その間の宇宙空間にとどまらず、他の惑星や太陽圏全域、さらに、系外惑星、銀河宇宙 などにも広がりつつあります。

 研究所で行われる最先端の研究とそこから生み出される成果は、人類共通の知的財産です。教育現場で生きた教材とし て利用していただくとともに、一般の方々に知っていただくことは、研究所の果たすべき役割の一つであると考えております。本ホームページでは、研究教育時 活動で得られた最新の成果を報告するとともに、代表的な研究項目について、わかりやすく説明しています。ホームページをご覧になって、少しでも、私たちの 研究に興味をもっていただければ幸いです。

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