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ロングイアビン〜2011年2月20日-27日〜

野澤悟徳

あの「脱出」から1年少し、再びロングイアビンに戻って来た。今回は、2月8日に日本を出国し、 約1週間 トロムソでライダー観測をし、その次の1週間は、 プラハで国際会議に参加しました。会議終了後、オスロで1泊して、いよいよロングイアビンへとの旅程です。 プラハからオスロに移動した翌朝、オスロの気温は、マイナス19度。オスロ空港9時55分発トロムソ経由ロングイアビンに搭乗し、2時間後にトロムソ空港に予定通り到着。 到着ゲートは21。いつも通り一度機外に出ました。これまでは同じゲートから再搭乗でしたが、案内板をなにげなく見るとゲート20が表示されている。 しかも、「国際線」に変更されている。これは初めてのパターン(気づいて良かった)。急いで歩き、ゲート20に向かいました。 途中、パスポートコントロールがありました。スヴァールバル諸島は、ノルウェーの管理であり、正式なノルウェー領ではありません。 ロングイアビンは、シェンゲン条約加盟国域外の扱いになったようです。あとで知り合いのノルウェー人に聞いたところ、このパスポートコントロールは、2010年クリスマス頃から設置されたそうです。その先生、それを知らずにパスポートなしで来てしまい、苦労したとか。このパスポートコントロールは、 スヴァールバル諸島の管理をより厳格にしようとのノルウェー政府の意図があるらしい。パスポートコントロールで「いつスカンジナビアに来ましたか?(英語)」 と聞かれると、「昨日」と答えるのが普通。しかし今回は、 トロムソ→ プラハ→  ロングイアビンの旅程なので、管理官に少し怪しまれ、いろいろ聞かれました。なんとかクリアーして、ゲート2に到着。座って待っていると、 今回のキャンペーンの相棒の、英国ランカスター大のK教授が到着。さらに、トロムソ大のH教授(彼は、UNISで講義のため)も同じ便でした。 さー、ロングイアビンに向けて出発。



トロムソ空港。飛行機までは外を歩いて行く。。。




2月20日 1日目 日曜日 〜到着〜

午後3時過ぎに、ロングイアビン空港に無事到着。3人とも同じアパートに滞在する。K教授がレンタカーを借りたというので、アパートまで便乗することになった。空港の駐車場で車を探す。



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ロングイアビン空港前駐車場にある案内版。。TOKYOまで6380km。。。


だけど、見つからない。キーがついたまま置いてあるとのことだが、見つからない。いろいろ探したあげく、スカンジナビア航空(SAS)のオフィスの前に、1台グリーンの車を見つけた。ナンバープレートの番号5桁のうち1つだけが違うだけで、0と1の違い。その車の名前は「ハイラット」で、借りる予定の車は「ハイエース」。K教授は、レンタカー会社に電話で予約したから、このぐらいの聞き間違いはあり得るのか?そして、車にキーがついている。レンタカー会社に電話しても返事なし。SASのスタッフに聞いてもよくわからん。SASのスタッフから、この車に乗って、レンタカーオフィスに行ったらどうかとの提案を受けた。3人で相談する。K教授は(普段の豪快さが影を潜め)すこしひるむ。H教授は、ひるむK教授に向かって、”You should make a try!  We have no choice.”と強く勧める。車内をみると、かなり散らかっている。私物にみえるラジカセとか靴がある。本当にレンタカー?しばし悩んだあげくK教授が決断し、この車に乗る事になった。スーツケースを荷台に積んで出発。


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この車で正しいのか?。。

 K教授曰く”Everything is different here in Longyearbyen!” なんか自分を励ましている感じ。でもさすがに不安らしく、K教授曰く、「へたすりゃ泥棒だな、ロングイアビンには、刑務所はあるのか?」 「その時には、見舞いに行くよ」とH教授。みなでとりあえず笑いながら、レンタカーオフィスに到着。スタッフらしい人がいる。なんで電話に出ないだ?と思いながら、さっそく、スタッフに問い合わせる。答えは、「NO!」 車が違うことが判明!!!レンタカー会社の受付のおねーさんがゲラゲラ笑いながら(そこまで笑わんでも)、「ロングイアビンで初めての盗難事件だ!」 K教授焦る。


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違うの?。。

 

 

H教授、”You should drive back immediately!”(この変わり身は素晴らしい)。レンタカー会社の男性スタッフと同行して、慌てて空港に戻った。車の中で、K教授曰く、「持ち主が銃を構えていたらどうするーー」(ロングイオビンでは、基本的に銃を携帯している。)”You should hurry!” と真面目顔でH教授。 車を拝借してから、15ぐらい経過している。空港で騒ぎになってなければいいのだが。。少し不安になる。空港に到着した。パトカーはいない。出入り口のところで、数人がたばこを吸っているだけで、平和なロングイアビン空港の雰囲気。変わったことはない。やれやれ。車を元のところに戻して、一安心。

 

ふと見ると、たばこを吸っていた女性が近寄ってきた”This is my car!”  銃は持っていない。みんなで平身低頭に謝ったら、笑って許してくれた。彼女曰く、「ロングイアビンでは、だれでも車のキーをつけっぱなしにしておく!」とのこと。。それに、「どうせ、この島(町)から逃げられないからね。」と。レンタカー会社から代わりの車を借りて、ようやくアパートに到着。ロングイアビンでは、日曜日でもスーパーが開いている。日曜日の営業時間は、(たぶん飛行機の到着時刻にあわせて)午後3時から6時。必要な食料を購入することができた。帰宅して、部屋のキッチンを調べていると、ヤカンがない。。。しょうがないので、再度スーパーに行き、電気ポットを購入。その足で、UNISの極地研オフィスに行って、少し仕事。なかなか面白い幕開けだ。さすがロングイアビン。

 

滞在2日目 月曜日 UNISにて

朝からUNISに出かける。今日は、ESR観測なし。朝8時ぐらいにアパートを出て徒歩でUNISオフィスに向かう。結構歩き易い。前回のときには、道路が完全に凍っていた。朝9時ぐらいに、ブレッケ先生がオフィスを訪ねてきた。師は、3週間ほど講義のために、UNISに滞在中とのこと。明日のESR実験の手配などしながら、1日を平和に過ごす。なんかとても外が暖かい。帰路は、かなり道がつるつるになっていて、歩くのに苦労した。後で聞いたが、この日は、飛行場のコンディション不良のため、フライトは欠航になったとか。ロングイアビンと本土間のフライトは、1日1便しかないから、こういうに当たると非常に困る。

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UNIS内部。木材基調の北欧風の作り。。。



滞在3日目 火曜日 景色が違う

なんかいつもと違う。そうだ、明るい!ここ10年ぐらいで5回ロングイアビンに来たが、いつも12月か1月。真っ暗の時であった。こんなに明るく景色が見れるのはひさしぶり。それに快晴であった。山がよく見える。午後4時にUNIS発、EISCATの車で、ESRに向かう。その途中、山の上にESRアンテナが見える。雪原には、となかいの群れ。10頭ぐらいいる。すばらしい。

 

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山の上にESRが見える。ESR左側の明るいのが炭鉱の建物。手前、道左側にとなかい。。。



K
教授のカメラをESRの車庫の外にセットする。ここは以前、「脱出」のときに、スノーモービルに乗ったところだな。外は、マイナス20度を切っている。寒い。カメラをセットして、暗くなるのを待つ。だけどだんだんと雲がでてきた。暗くなったころには、残念ながら雲が空を覆い、光学観測は難しくなった。ESR観測は順調だったが、電離圏は静穏だ。朝6(LT)まで観測した。

 

滞在4日目 水曜日 晴れないな。

夕方5時(LT)から朝の6(LT)まで13時間のESR観測。天気予報は悪かったが、途中晴れ間が見えた。チャンスだ! このESR観測では、当初 1.6度/秒の速度で アンテナをスキャンしようとしたが、メカニカルな問題で、EISCAT側に却下された。妥協案として、通常は、0.64度/秒のスピードでスキャンし、オーロラが出たら1.6度/秒 にすることになっている。ただ、この1.6度/秒を長く続けると、アンテナが壊れるかもしれないので、慎重にやってくれと言われていた。 しかし、チャンスを逃すわけにはいかない。EISCATエンジニアのアサーにスピードアップを依頼した。晴れ間があるが、あいにく弱いオーロラアークが出ただけ。オーロラは、なかなか明るくならない。残念。ただ、ESR1.6度/秒観測ができることを確認したのが、収穫だった。


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昼間、山の上に成層圏雲が見えた。手前の建物は、UNIS。。。

 

滞在5日目 木曜日 天国と地獄

悪天候の予報なのでESR観測はなし(吹雪はこりごり)ESRに行かないときは、UNISの極地研 officeを使わしてもらい、仕事をしている。アパートとUNISまでは、町の中心(スーパーがある)を抜けて、だいたい1.2 kmぐらい。徒歩1620分(路面の状態による)。この日は、UNISで1日過ごした。夕方。外は暴風!!!風速毎秒10メートルを超える風が吹いている。外気温はマイナス15度以下。そしてこの強風。室内は温度20度以上で快適。天国と地獄の違いだ。オフィスからアパートまで徒歩で帰らねばならない。幸い町の中心には、街灯がたくさんあり明るい。一歩UNISから外に出た瞬間に強風で吹き飛ばされそうになる。根性で前進を試みるが、なかなか進まない。強風の上、逆風。足下が滑る。。10分ぐらい歩いて、まだ半分も行っていない。町の中心を通過して、町はずれにいくと、さらに強風が吹いている。視界がきかない。寒い。顔がちくちく痛みだした。がんばって歩こうとするが、進まない。。。風が強すぎる。一歩一歩進む。。。アパートの近くの橋をわたってあと少し!顔が痛い。。。やばいい。まじで、へたすりゃ、町で遭難する。なんとかアパートにたどり着く、ふーーー。室温は、20度以上。室外は、体感マイナス30度か?なかなか愛知県では体験できません。

 

滞在6日目 金曜日 雪カキ

すでに何度か紹介しているが、ESR観測所は、鉱山につながるメインストリート(除雪される道)からそれて、600 mぐらい中に入ったところにある。この測道の雪かきは、EISCAT側の責任。したがって、道路閉鎖の危機がつねにある。過去何度も、スノーモービルで脱出した。今回の観測12日目は、平和であった。積雪はたいしたことなく、観測所から町のアパートまで、車で20分かからなかった。悪天候であったが、3回目のESR観測が午前4時に無事終了。「雪が積もっているけど、行けると思う!」アサー曰く。念のため3人分のスコップを車に積み込み出発。「この前、レンタカーで2度雪にスタックしたよ。一度はガードレール衝突寸前だった。でもこの車なら安心だ!」とK教授。そうかー、まあ難にしろ、慎重に頼むわという気持ちを込めて、”Be careful”と私。

 


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K教授のレンタカー。この車がどうしてなかったかなぞのまま。。。

時刻は、午前415分過ぎ。早くアパートに帰って寝たいわ。ESRサイトを出発して、わずか1分、がたがたとの騒音のもと、車が道から外れた。アサーが、アクセル全開、ハンドル切り返しを何度も立て直しを図るが、動かない。「雪をどかすしかないか、3人でやれば早いよ」とK教授。3人とも車外に出て、雪カキ開始。しばらくして、「よし、押してくれ」とアサー。K教授と私の二人で車の前面から押す。タイヤがものすごい騒音をたてながら空回りしている。うーん、だめだ。「車が傾きすぎて、右のリアタイヤが浮いている。荷台にのろう」とK教授。2人で荷台にのり、過重をかける。再び、トライ。大きな音を立てながらなんどもハンドルの切り返して、少しづつ動き出した感じ。「オーケーいいぞー」とK教授。そして、ついに車は動き出した。やれやれ。。帰宅して寝床に入ったのは午前6時過ぎ。疲れた。

 

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道から外れた。。。。。

 

滞在7日目 土曜日 雪かき

今回最後のESR観測の日。これまで無事に過ごしてきたから、このまま平穏に終わって欲しい。午前9時過ぎには、アパートの外のスノーモービルの騒音で目がさめる。やれやれ。壊れたスーツケースに四苦八苦しながら、パッキングを行い、なんとか、スーツケースを閉じることに成功。それからUNISに行き、出発時間まで仕事をして過ごす。

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アパートの窓から。スノーモービルがうるさい。。。。。


今日も天気が悪い。。午後4時発で、アサー、K教授と3人でESRサイトに向かう。今日は、天気悪いな。風が強すぎる。嫌な予感。無事サイトに着いて、観測開始。観測中に「道はどうか?」とK教授。「42mアンテナの後ろで、きっと積雪がすごいだろうね。」とアサー。「じゃ、早めに雪かきした方がいいのでは?」とK教授。「まあーなんとかなるだろう」とアサー。「でも、この悪条件だと、明日の飛行機は危ないな」とアサー。「まー、ゆっくりして行けよ」と滞在がまだ1週間あるK教授が続く。「わしは帰るよ〜」と私。あいにく悪天候で光学観測では有益なデータは得られない。ESR観測自体は午前4時に無事終了。午前4時20分にESRサイトを出発。「昨日みたいにスタックすると大変だから、早めに雪かきしようぜ」とK教授。やる気まんまんの様子。そして、すぐ車は停止。「雪かき開始!」とアサー。3人で雪かきを始める。アサーはものすごい勢いで雪かきをしていく。わたしとK教授もそれに続く。しかし、雪が重い。風が強い。。。。結構大変だ。格闘すること20分ぐらいか。ようやく道が完成した。アパートに帰りついたのは、午前5時過ぎ。やれやれ、なんとか今回のESR観測は「無事」に終わったか。後は明日(今日?:10時間後)の飛行機が無事飛べば、良いだけだ。


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雪かき終了。。。

 

 

滞在8日目 日曜日 タクシーは来たけれど。。。

午前10時過ぎには起床して、いろいろ片付けしながら、帰り準備を進める。そして、午後128分ごろ、K教授に別れをつげる。「See you!」 時間通りに、タクシー到着。タクシーの運転手が挨拶の後にいきなり、「The flight was cancelled」。あちゃーーー。どうしようかと思案した。とりあえず空港に行って、この後のフライトを予約しないといけない。空港に向かう。空港に到着したら、「ここで待っているよ。荷物もそのままでいいよ。」とタクシー運転手。SASのカウンターに行き、交渉を開始。。。不幸中の幸いで、11時間後、月曜日の午前1時40分の特別便(オスロー直行便)に搭乗させてくれるそうだ。これなら、その後のフライトも大丈夫だねと嬉しそうに、係の女性が言う。おいおい。タクシーでUNISに向い、降りるときに、夜0時15分のタクシーの予約をする。やれやれ。これから10時間。。UNISで仕事をする。途中、K教授に会いにいく。「I am back」と私。本当にキャンセルに成ったのかと驚くK教授。しかし眠いな。仕事をしながら時がたつのをまつ。もう食料はない。ひもじい限り。少しづつ時間はたち、月曜日に日付が変わった。UNISから再度タクシーにのり、空港に向かう。天候は普通、今度は飛びそうだ。check-inをすませ、セキュリティーを通過。すでに待合室は、ほぼ満員。日曜日の夜のせいか、家族連れが多い。


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ロングイアビン空港。ようやく出発。。。



離陸してすぐ熟睡。飛行機は定刻で離陸し、午前4時30分過ぎに、オスロ空港に到着。私の席は1Aだったので、飛行機を一番で降り、一番でパスポートコントロールを通過。荷物を回収して、ホテル行きのバス乗り場に向かう。オスロ空港のそばのScandicホテルにcheck-inし、部屋に着いたのが午前6時すぎ。。。。ロビーに素敵なパブがあり、楽しそうなホテルだ。わずか3時間ほど寝て、再度出発。残念。もうくたくた。。。 最近まともに寝ていないな。帰りの日本便では、熟睡した。。。


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SCANDIC hotel。わずか時間の滞在になるとは。。
。。

 


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