基盤研究(A)⁄  Grant-in-Aid for Scientific Research (A)

超小型衛星による、宇宙空間からの太陽中性子観測分野の開拓 Exploration of Solar Neutron Observations from Space Using Micro/Nano-satellites

研究の目的 Research Objectives

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概要

宇宙には超新星爆発、パルサー風、巨大ブラックホール近傍などで陽子や電子といった粒子が光速近くまで加速されており、いわば自然の粒子加速器なるもの が存在することが知られている。 そうした粒子を宇宙線と呼び、地球にも到達して来るが、最大のエネルギーは実に10^20 eVにも及びどこからやってきているのか?どのように加速されているのか? 謎に包まれている。従来の手法である電磁波(電波から紫外線・X線などの光)で観測できるのは軽い電子の寄与が支配的で、 電子よりも重たい電荷を帯びた陽子や重元素(イオン)の加速について直接的に証拠を得ることはなかなか難しい。 地球に最も近い恒星の太陽は、爆発現象であるフレアに伴ってイオンの加速が起き、巨大なものだと大量のイオンが到来して電波障害や人工衛星破壊を引き起す。 その身近な太陽でさえ、イオンがどうやって加速されているかというメカニズムはよく分かっていない。本研究では、これまで精密観測が進んでこなかった中性子という 粒子に着目して、太陽中性子観測分野を超小型衛星を用いて開拓し、宇宙空間と地上高地の中性子同時観測ネットワークにより 太陽におけるイオン加速メカニズムに迫ることにある。

この研究目的を達成するため、我々のグループでは、理工横断の研究組織を構築し、最新の半導体デバイスである光センサ(MPPC)を用いた 超小型・軽量・低消費電力の太陽中性子観測機器の開発と3Uサイズ(10 cm x 10 cm x 30 cm)のキューブサット開発を並行して行い、 打ち上げられた衛星データを用いて太陽中性子の観測的研究を行う。最終的に宇宙からの中性子観測にもとづき、 太陽フレアにおける粒子加速メカニズムの解明を目指す。

なぜ中性子を使って観測するのか?

これまで太陽フレアの観測は、電波、可視光、X・ガンマ線をはじめとする電磁波を中心に進められてきた。 電磁波を用い磁気リコネクションに伴って電子が加速され、硬X線が磁気ループトップから発生することが 分かってきた(Masuda et al. 1994)。しかし、イオンの加速については全くの謎である。 もう一つの有力な観測手段である、電子・陽子・イオンなどの荷電粒子は、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)で加速され、 時おり地球まで到達するものの、太陽磁場、宇宙空間磁場の影響を受けて、エネルギーや到来方向など元々所持していた 情報が失われる。それに対し、中性子は加速されたイオンが太陽大気と相互作用して発生すると考えられ、加速情報を維持したまま、 平均寿命(約887秒)程度で地球に到達する。したがって、\textbf{太陽は中性子観測を手段にイオンの加速現場を直接探究できる 唯一の天体であるといえる。
中性子メリット
図1: 中性子は磁場の影響を受けずに太陽から直接やってくる。

目的1: 太陽フレアにおけるイオン加速機構の解明

本研究の目的は、第一に宇宙からの太陽中性子観測を開拓するため、 超小型衛星に小型軽量の専用中性子検出器を 搭載・打ち上げ、太陽フレアにおけるイオン加速機構を解明することにある。 軽量な超小型衛星をSEDA-APのISS(高度400 km, 軌道傾斜角51.6度)よりも 低緯度高軌道(例えば「すざく」衛星と同じ550 km, 31度)に打ち上げることで、中性子バックグラウンドを 問題ないレベルに抑制でき、な高精度観測が期待できるばかりか、地上では大気吸収の影響を受けて難しい100 MeV以下 の観測が可能である。名古屋大学宇宙地球環境研究所は、地上中性子望遠鏡の設置・観測、SEDA-AP FIBの開発・観測と 太陽中性子観測分野で世界を大きくリードしている。世界を見渡しても現在までに太陽中性子観測を 目的とした衛星計画は存在しない。

目的2: 新しい検出技術の宇宙への適用

第二に、最新光デバイスであるMPPC(浜松ホトニクス社製のMulti-Pixel Photon Counter。一般にSi PMと呼ばれる) を宇宙で初めて動作実証し、長期安定性・放射線ダメージなどの貴重なデータを取得し、今後の宇宙観測ミッションの先達となる}ことである。 SiPM (MPPC)は従来広く使用されてきた光電子増倍管(フォトマル)に比べて、コンパクト(< 1 cm^2)、低バイアス 動作可能(〜55 V)、高量子効率(〜40-50 %)であり、今後宇宙のガンマ線や宇宙線観測では、光電子増倍管に代わってMPPCなどのSi PMの使用が 飛躍的に伸びていくと期待される。我々が計画段階のミッションに先んじて、こうした技術的チャレンジができるのも超小型衛星の強みといえる。

目的3: 宇宙機器開発を通じた人材育成

第三に、本研究と名古屋大学リーディング大学院「フロンティア宇宙開拓リーダー養成プログラム」(コーディネータ: 田島 宏康教授)がタッグを組み・開発を行うことで、\textbf{宇宙開発で世界に通用するリーダーを育成すること}にある。 現在の素粒子・宇宙実験は高精度・高性能が求められ、大型化の方向に進みつつある。これでは1人1人が担当できるタスクが細分化され、 プロジェクト全体を見る人材が育ちにくい。超小型衛星(特にキューブサット)は、ある意味デスクトップPCのようなサイズであり、 現在の若者にとっては馴染みやすく、試行錯誤もしやすいものである。このような経験を積み上げ、将来的には専用太陽中性子検出器のさらなる 高性能化(特に検出中性子数の増大)に向け、中・大型衛星への搭載を目指す。また、本プロジェクトはLGSに所属した大学院生による 提案からスタートしたものであり、ChubuSat-2の失敗を乗り越えて、是非とも実現したいと考えている。