各班の研究内容

総括班

 

総括班の目的

総括班は計画研究及び公募研究の有機的な連携を通して領域全体の研究成果を最大化することを目的としています。その為、必要かつ適切な研究戦略を幅広い視点から定めると共に、真摯な自己評価を行いながら効果的な領域運営を実現していきます。さらに、関連学術コミュニティ、産業界、海外協力機関との連携協力を強化すると共に、科学と社会を繋ぐ視点を持って先端研究をリードできる人材の育成も推進します。また、研究成果をプレスリリースやWEB、一般講演会、全国的な出前授業、市民向け解説書、科学雑誌・科学番組への協力等を通して積極的に社会・国民に発信する役割も担います。

総括班の計画

本格的な分野横断研究である本領域では、計画研究と公募研究からなる幅広い共同研究を推進するため、以下の計画を進めます。各グループが開発する予測モデルを用いた数値実験により、現代社会がこれまで経験したことのない大規模な太陽地球圏環境変動のシミュレーションを行い、我が国で初めての激甚宇宙天気災害報告書を作成して、広く公表します。また、国内・国際シンポジウムをそれぞれ定期的に開催し、領域研究の成果と展望を幅広く議論すると共に、小規模の研究集会、チュートリアル、サマースクールなどを実施して全国的な研究水準の向上に貢献します。さらに、若手研究者支援のための施策(研究支援、海外派遣、自主研究会支援)を継続して行うと同時に、プレスリリースを含めた積極的な情報発信、宇宙天気予報の社会応用の推進を各グループと協力して展開します。

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A01:予報システム班

目的

太陽活動を主な源とする「宇宙天気」は通信・放送・測位等の電波インフラの利用や人工衛星の運用に影響を与えたり、電力網に被害を与えるなど我々の生活に深くかかわっています。人類の社会インフラの発達は、激甚宇宙天気災害に対して脆弱であり、発生した場合の被害は甚大なものになると思われます。近年、国際民間航空機関(ICAO)等航空業界の動向に代表されるように、宇宙天気の現業利用に向けた国際的な活動が活発になってきておりそのニーズは確実に増大しています。その一方で、我が国の宇宙天気の議論は学術的議論が主となり社会ニーズにこたえられていないのが現状です。 本研究では、他の研究領域から発信される宇宙天気に関する最新の知見をもとに、実社会で宇宙天気情報を利用すると想定される業種の事業者と協力し、宇宙天気関連災害に対して社会インフラが必要十分な対策が取れるような体制を構築することを目的としています。また研究者サイドからは、社会インフラの宇宙天気ニーズを明確な研究目標として設定することにより、実利用に資する研究開発を進めるフィードバックシステムを構築します。 本研究では、宇宙天気の実利用を担うユーザーと大学等の研究者の間での双方向コミュニケーションをとることにより、宇宙天気データの利用を推進し、ユーザーの利便に応えるとともに研究者の目標を具体的に示していくことが特長となっています。このための、研究者の成果とユーザーニーズのとりまとめ及び調整をA01班が担うこととなります。また、A01 班は計画研究間の連携を取るための役割を担います。これまでの類似研究に対し本研究課題では、実利用事業者との交流により、実際に社会の役に立つ情報提供を目指すものであり、社会展開の点では他に類を見ないと言えます。 img_a01_research

計画

A01班が推進する具体的な双方向システムとして、

  1. A02-04 班から発出される成果と、実利用側の事業者のニーズとの間のギャップ解析を行い、実現時期による分類を行うとともに、実現可能性の高いものについてアプリケーションの開発を進め実利用に供します。
  2. A02-04 班の成果として出力されたモデル及びシミュレーションコードを、実利用で利用する観点から結合を検討するとともに、その評価の過程から改善すべきパラメータの抽出を行いA02-04 班にフィードバックします。

このようなシステム開発に当たっては、研究者およびユーザーの意見を反映させることが不可欠であり、A01 班では主な分野のユーザーとの会合を定期的に開催することでその解決を図ります。

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A02: 太陽嵐班

目的

地球を取り巻く宇宙環境は、太陽から放たれる紫外線やX線、高エネルギー粒子(放射線)、および磁化したプラズマの風が激しく変動する世界です。この「太陽地球圏環境」は地球環境と人間社会にも多大な影響を与えることが分かっています。本計画研究では太陽地球圏環境の理解と予測の向上を目指し、歴史的な科学課題である太陽面爆発の発生機構を解明すると共に、太陽面爆発とその影響の予測性を抜本的に改善します。そのため、以下の基本目標を達成します:

  1. 精密な太陽面磁場観測と先進的な物理モデルの連携により、大型フレアのトリガ機構を特定し爆発過程を理解することで、従来の経験予測モデルより確度の高いフレア発生の予測スキームを開発する。
  2. 光学観測と電波観測の連携により太陽面爆発からコロナ質量放出に発展する過程を連続的に捉え、太陽風・CME・太陽高エネルギー粒子のモデリングを高度化することにより、地球を襲う太陽嵐の重要度を爆発の発生から数時間以内に確率予測する方法論を開発する。

さらに研究の進展を通して、以下の発展目標の達成を目指します:

  1. 観測とモデルの適切な同化手法を開発し、大型フレアの発生前にフレア発生とその影響を定量的に予測するスキームを構築することで次世代宇宙天気予報の基盤を形成する。

本計画で使用する観測設備群は参加機関によって定常的に運用されており、一部装置の強化を図るものについてもこれまでに受けた研究費の成果により整備に向けた準備は整っています。研究成果は本領域の総括班と密に協力しながらホームページなどで広く社会に発信します。

計画

本研究では、爆発に至るまでの太陽光球・彩層磁場の発達過程と噴出したフィラメントの運動、およびそれに伴って発生するコロナ中の衝撃波とコロナ質量放出(CME)の伝播を、全国の関連研究機関や大学の施設を活用して総合的に観測し、電磁流体方程式に基づく数値モデルでこれらを再現することによって、上に掲げた目標を達成します。第1に、我が国が誇る「ひので」衛星を用いて世界最高精度の光球磁場観測を行うと共に、彩層磁場の観測を国立天文台が行います。このデータを最近開発したフレア発生モデルと比較することにより、太陽面爆発の発生原因を解明し、最も効果的にその発生を予測する方法論を開発します。第2に、CMEの惑星間空間伝搬を複数機関の連携で連続観測します。まず、太陽面から上昇するフィラメントの速度場観測を京大SMART望遠鏡で行います。その後の衝撃波伝搬を情報通信研究機構の新太陽電波バースト監視システムで捉え、地球軌道に至るその伝搬を名大電波シンチレーション観測システムで観測します。これらのデータを精密な電磁流体モデル及び粒子モデルに導入し、地球軌道における太陽風擾乱と太陽陽子変動を定量的に予測します。 加えて本研究では、2つの観測設備を強化することで、太陽面爆発を捉える新しいデータを創出します。すなわち国立天文台の彩層磁場観測装置に新赤外線カメラを導入することにより彩層磁場の検出精度をこれまでよりも数倍向上させ、また京大飛騨天文台では新たに速度場撮像装置を設置することで地球に向かって高速噴出するフィラメントの運動を短時間に捉えることを世界で初めて可能とします。

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A03:地球電磁気班

目的

太陽、太陽風による擾乱に伴い、地球電磁気圏の環境は大きく変動し、放射線帯の高エネルギー電子の急増や、太陽プロトンの磁気圏および大気圏への侵入、プラズマバブルなどの電離圏電子密度の変動、そして地表に誘起される電流の増大などの宇宙天気現象が発生します。これらの宇宙天気現象は、地上で生活し宇宙を活動の場とする人類の基盤を脅かすものであり、しばしば人工衛星の故障や、通信の途絶、さらには送電線網の破壊といった影響が発生します。 本研究では、地球電磁気圏で生起する宇宙天気現象のうち、(1)宇宙放射線(地球放射線帯電子、太陽プロトン)、(2)電離圏の電子密度変動、(3)磁気嵐時に地表の送電線に誘導される電流、に焦点をあて、これらの3つの現象が太陽や太陽風の擾乱にどのように応答し、どのような変動を示すかについての予測を行うモデルとスキームの開発を行うとともに、観測との比較を通して、予測の精度向上を行うことを目的としています。比較する観測として、2016年に我が国によって打ち上げられるジオスペース探査(ERG)衛星の最新の観測データや、世界で他に類を見ない広域の地上多点ネットワークによる電磁気圏変動の観測データ、電力会社と協力して新たに取得される送電線の誘導電流の観測データを用いることに特徴を持っています。研究グループは、人工衛星や地上からの観測に豊富な実績を持つメンバーと、ジオスペースの最先端の数値シミュレーション開発で成果を上げているメンバーとがバランスよく配置され、シミュレーションと観測の比較による実証的な研究を目指しています。さらに本研究で開発したモデルの成果については、A01班を通して宇宙飛行士の被ばく、通信障害や測位誤差、地表に誘導される電流といった具体的な宇宙天気の影響として社会に発信し、研究の成果が人類の社会インフラの安定した利用へと結びつくことを指向している点でも、従来の宇宙天気研究とは一線を画したものになっています。

地球電磁気圏で起こる様々な宇宙天気現象。 太陽、太陽風の擾乱に起因して、高エネルギー粒子の増加、電離圏電子密度変 動、地磁気誘導電流等の現象が発生し、人工衛星の故障や、通信障害、停電等、 人間活動に様々な影響が発生します。

計画

本研究では、太陽や太陽風による擾乱現象が、(1)宇宙放射線、(2)電離圏変動、そして(3)送電線の誘導電流をどのように作り出すかを明らかにし、その変動を予測することを目的としています。これまで、太陽風と地球電磁気圏の相互作用は、電磁流体力学(MHD)にもとづいたグローバルモデルが開発され、様々な成果を挙げてきました。一方で、上記の(1)-(3)は、MHDだけでは記述ができない現象です。そこで、本研究ではそれぞれの現象に特化した要素モデルを開発してグローバルMHDモデルと結合させた計算を行い、太陽風の変動に対する応答過程を予測します。(1)については、準線形モデルにもとづく放射線帯基本モデルの構築、およびプラズマ波動による粒子加速に関する非線形波動粒子相互作用の要素研究を進めていきます。また、(2)については、これまで分担者らによって開発されてきた電離圏グローバルモデル及び、プラズマバブルなどのメソスケール現象を計算することのできるモデルを改良し、太陽フレアに対する電離圏の応答や、通信・測位障害を引き起こすプラズマバブルの発生と伝搬を予測します。さらに、(3)については、磁気圏・電離圏に流れる電流にもとづいて地面を流れる誘導電流を全球的に計算するとともに、日本周辺特有の複雑な地下電気伝導度を精密に表現できるモデルを新たに確立し、太陽風擾乱によって引き起こされる磁気嵐時に日本のどこで強い誘導電流が誘起されるかを明らかにします。 これらの開発されたモデルは、磁気圏におけるジオスペース探査衛星(ERG)による粒子やプラズマ波動の観測、また広域多点地上観測ネットワークで取得した電離圏・熱圏や地表の誘導電流に関するデータとの定量的な比較に基づいてモデルの精度を検証します。また、観測データから推測されるより適切なモデルの境界条件を適用することで、モデルの精度の向上を行います。

電離圏で発生するプラズマバブルの計算機シミュレーション(Yokoyama et al., J. Geophys. Res., 2014より)。 電離圏においては、プラズマ不安定性によってバブルと呼ばれる電子密度の不均 一構造が発生し、電波の乱れであるシンチレーションが発生します。本領域では このバブルの発生と伝搬の予測を目指して研究を行っています。
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2016年にJAXAより打ち上げ予定のジオスペース探査ERG衛星。
放射線帯中心部において高エネルギー粒子やプラズマ波動の詳細な観測を行います
(コピーライト:ERGプロジェクト)

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A04:周期活動班

目的

太陽黒点活動の約11年の周期的変動や17世紀後半のマウンダー極小期などに代表される太陽活動の長期変動は、気候変動の自然要因のひとつと考えられています(図1)。しかしながら、太陽活動に関わる様々な要素の変動が地球環境・気候に及ぼす影響は、十分な科学的理解に至っておらず、気候モデルによる将来予測において不確実性をもたらす大きな要因の一つとなっています。一方、現在極大期を迎えている第24太陽周期は、過去100年間で最も黒点数が少ない特異な周期になる可能性が高いものの、その原因は未解明です。また、次の周期の太陽活動状況の予測は、今後数十年の「太陽地球圏環境」の予測をおこなう上で必須であり、その学術基盤の構築が急務となっています。 本研究の目的は、先端的な太陽観測・解析と太陽ダイナモモデルを結び付けて次期太陽周期の活動予測に挑戦することです。また、最新の観測と情報処理技術を駆使してマウンダー極小期のような極端な低活動状態が発生する可能性を吟味します。さらに、全太陽放射強度・スペクトルの長期変動や銀河宇宙線変動などの外部強制変動に対する大気応答過程を気象研究所地球システムモデルに組み込み、太陽活動変動が気象・気候に影響を与える主物理メカニズムをシミュレーション実験により特定します。

図1 過去400年の太陽黒点数経年変動

計画

本研究では、太陽周期活動の予測太陽活動変動の気候影響の二つに焦点を当て、様々な分野の研究者が連携して最新の観測と先進的な数値シミュレーションを融合した研究を推進し、第25太陽周期の予測と、太陽活動変動がもたらす気象・気候への影響を解明します。基本目標として、①太陽活動の精密な観測と新たな太陽ダイナモモデルにより次期太陽活動サイクルの予測を行うとともに、②太陽物理学と気象学・気候学の連携により太陽活動の気候影響メカニズムの特定を行います。さらに、発展目標として、数百年スケールの太陽活動長期変動の機構解明、および太陽影響を組み込んだ地球システムモデルによる長期変動再現を行います。

各サブグループの計画は以下の通りです。
各サブグループは図2のように連携します。

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図2 各サブグループの計画

 

次期太陽周期予測関係
  • 国立天文台での赤外線波長精密磁場長期継続観測、および「ひので」衛星等の磁場データ解析
  • 観測値をパラメータ値とした運動学的ダイナモ計算による第25 太陽周期の予測 (図3)
太陽放射・宇宙線関係
  • 1910 年代からの太陽彩層の観測画像を用いた過去の太陽紫外線強度の推定
  • 太陽活動と太陽紫外線スペクトル放射強度の関係則の構築
  • 樹木年輪、氷床コア、湖底堆積物等の宇宙線生成核種の精密測定による過去の宇宙線強度変動の詳細解析
太陽気候影響関係
  • 気象研究所地球システムモデルに太陽活動変動の諸効果を個別に入力するモジュールの開発・整備(図4)
  • 次期IPCC 評価報告書用結合モデル相互比較プロジェクトCMIP6 に準拠した典型事例の再現実験と観測データによる性能検証・評価

さらに、次期太陽周期予測、太陽放射・宇宙線、および太陽気候影響の各サブグループが互いに協力し、関連公募研究とも連携して本計画研究を遂行し、新しい学術領域の開拓を進めます。

図3 太陽周期活動の変動メカニズムと予測モデル化 (資料引用Nandy et al. 2011) 図4 太陽活動変動の諸要素を介しての気象・気候への影響 (Gray et al. 2010をもとに作図)

公募研究 についてはこちらから

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