【プレスリリース】スーパーコンピュータ「京」による世界最高解像度計算で太陽の磁場生成メカニズムを初めて解明

 本領域の太陽周期班(計画研究A04)の堀田英之千葉大学大学院理学研究科特任助教をはじめとする国際研究チームは、スーパーコンピュータ「京」で可能になった超高解像度計算により、太陽活動の11年周期を作るような大規模な磁場構造を太陽内部で生成・維持するメカニズムを世界で初めて解明しました。本研究成果は、米科学誌『Science』(25 March 2016, VOL. 351)で発表されました。

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京コンピュータで再現された太陽上層の磁場(白は外向き、黒は内向きの磁場強度を示す)

1)研究の背景 ~地球環境に大きな影響を及ぼす黒点の11年周期の謎

 太陽には黒点という強磁場領域があり、望遠鏡によるその科学観測はガリレオ=ガリレイによって400年以上前に開始されました。それ以来、現在に至るまで継続されている黒点観測によって、黒点数が約11年の周期で変動することが知られています。しかし、その変動メカニズムは未だ明らかになっておらず、太陽物理学における最大の謎の一つとなっています。また、西暦1600年代中頃から70年程度黒点がほとんど現れなかった時期(マウンダー極小期)があったことが知られており、その期間には地球が寒冷化していたことも示唆されています。それゆえ、この謎の解明は将来の地球環境を考える上でも急務であり、本領域の重要な研究目標の一つとなっています。
 太陽内部は乱流で占められており、この乱流運動が磁場を生成していると考えられています。しかし、太陽内部でカオス的運動をなす小スケールの乱流から、どのような物理過程を通して秩序立った大規模磁場が約11年の周期で生み出されるのかは未解明の謎として残されていました。

2)研究の成果 ~スーパーコンピュータ「京」を用いた超高解像度計算

 スーパーコンピュータ「京」のような大規模計算機を効率的に扱うために研究チームが独自に開発した計算法「音速抑制法※」を用いることで、これまでにない超高解像度計算が可能になりました。本研究では、小スケールのカオス的乱流から大規模な磁場が生成されるメカニズムを初めて明らかにしました。この計算では、さらに乱流の中から10年スケールの周期的な磁場活動を再現することにも成功しました。この超高解像度計算の結果から、小スケール磁場が流れ場を強く抑制することで、秩序立った大スケールの流れのみが許され、カオス的な流れの中から 秩序立った磁場が生成されることが初めて明らかになりました。研究チームでは、今後、衛星を中心とする観測によって、今回発見した理論の詳細を確かめることで、太陽黒点の謎の本格的な解決を目指す予定です。

※音速抑制法とは、計算負荷軽減のために実効的な音速を遅くする数値計算法。これまでの手法に比べて大規模計算機を効率的に行うことができる。

研究チーム

・千葉大学 大学院理学研究科 堀田英之 特任助教
・米国HAO/NCAR Matthias Rempel博士 Senior Scientist(主任科学者)
・東京大学 大学院理学系研究科 横山央明 准教授

論文情報

掲載誌:Science
論文タイトル:Large-scale magnetic fields at high Reynolds numbers in magnetohydrodynamic simulations 著者:H. Hotta, M. Rempel, T. Yokoyama
DOI:10.1126/science.aad1893

リンク

・本研究に関する千葉大学のプレスリリース
http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/pdf/2015/20160324.pdf
・本研究に関する動画等の資料
http://www.astro.phys.s.chiba-u.ac.jp/~hotta/press/2016/index.html

 謝辞

 本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」における「ダークマターの密度ゆらぎから生まれる第1 世代天体形成」(課題番号hp140212、hp150226課題代表者:牧野淳一郎)の計算資源を利用して実施したものです。 また、新学術領域「太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成」の支援を受けました。