過去の太陽活動/宇宙線変動史を解明する新手法の開拓に成功【日中国際共同研究】

 A04班研究分担者の宮原ひろ子氏(武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程研究室)が率いる国際共同研究チームは、中国雲南省の白水台に広がる石灰質堆積物が、過去の太陽活動および宇宙放射線変動を復元する強力なツールになり得ることを発見しました。厳密な1年分解能で数十万年前まで遡ることができる手法が開拓されたことにより、太陽ダイナモの長期変動や地球を取り巻く宇宙放射線環境についての理解が大きく進むことが期待されます。本研究成果は、科学雑誌Quaternary Science Reviewsに掲載されました。

 太陽は、基本となる11年周期のほかにも、数十~数千年スケールの変動を示すことが知られています。そういった太陽の長期的な変動は、地球の気候にも大きな影響を及ぼすため、太陽活動の歴史を正しく理解して変動のメカニズムを探っていくとともに、地球や社会におよぼす様々な影響を明らかにしていくことが求められています。
  ガリレオが太陽黒点の観測を開始した17世紀初頭以前の太陽活動は、樹木年輪に含まれる炭素14(半減期:5730年)や南極の氷床コアなどに含まれるベリリウム10(半減期:139万年)といった、宇宙から飛来する放射線が大気中で生成する核種の量を分析することにより、間接的に調べられています。
地球に飛来する宇宙放射線は、太陽圏に広がる太陽の磁場によって一部が遮蔽された後に地球に到来するため、その線量は、太陽活動度に応じて変化します。そのため、地球の大気中での炭素14やベリリウム10の生成率は、太陽活動の変動にともなって変化します。
  しかしながら、二酸化炭素として大気中を循環する炭素14は、その生成率に見られる変動の振幅が大気の中で大幅に減衰するため、樹木年輪の分析だけでは太陽活動の11年周期変動の詳細な特性を復元しにくいという問題点がありました。また、遡ることができる年代も、数万年程度が限界でした。一方で、氷床コアは、深層の氷ほど圧縮されるため、数万年よりも古い時代については1年という分解能が達成しづらいという問題点がありました。
  そこで、本研究では、世界で初めて、トラバーチン堆積物と呼ばれる石灰質の堆積物(下図)から過去の太陽活動や宇宙放射線変動の情報を抽出する手法を開拓しました。トラバーチン堆積物は1cm以上の年層を持ち、数万年をはるかに超える古い年代についても、1年分解能で太陽活動を復元できる可能性を秘めています。
今回は、中国雲南省白水台から採取されたトラバーチン堆積物のうち、年代の特定が容易な現代の年層の分析を行いました。その結果、トラバーチン堆積物からは、宇宙放射線の強度を良く反映したベリリウム10変動を、正確な時間軸で取得できるということが判明しました。
  ベリリウム10は太陽高エネルギー粒子によっても生成されます。したがって本手法は、過去に発生した大規模太陽フレアの探索にも応用することができます。様々な時間スケールで変化する太陽の姿を、より長期にわたり正確な時間軸で捉えていくことにより、変動のメカニズムや地球への影響についての理解が大きく前進するものと期待されます。

中国雲南省の白水台に広がる石灰棚(左)と、白水台より採取された石灰質堆積物の年層(右)

論文題目: High-resolution records of 10Be in endogenic travertine from Baishuitai, China: A new proxy record of annual solar activity?
著者:Hongyang Xu, Hiroko Miyahara, Kazuho Horiuchi, Hiroyuki Matsuzaki, Hailong Sun, Weijun Luo, Xiangmin Zheng, Yusuke Suganuma, Shijie Wang, Limin Zhou.
発表誌:Quaternary Science Reviews
DOI: https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2019.05.012
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379119300800