Science Nuggets No.27 (20200304)

圧力および重力を含む太陽大気磁場の数値モデリング

広島大学 三好隆博

太陽フレアやコロナ質量放出など太陽コロナにおける爆発現象はコロナ中の磁気エネルギー解放過程と考えられています。したがって、これらの現象の理解と予測にはコロナ磁場の3次元分布の情報が必要不可欠となります。ただし、コロナ磁場の高精度かつ高解像度な直接観測は非常に困難です。そこで高精度・高解像度測定が可能な光球面磁場を用いてコロナ磁場を再構成する手法が検討されてきました。

コロナではプラズマの圧力に比べ磁場の圧力が支配的であり、ローレンツ力がゼロになるフォースフリー磁場近似がよく成り立つと期待されます。そのため、光球面磁場からフォースフリー磁場を外挿する数値手法が特に研究開発されてきました。しかし、光球面ではプラズマの圧力と磁場の圧力が同程度であるため、コロナ磁場につながる光球面磁場は一般にフォースフリー磁場ではありません。また光球面とコロナの間の彩層では重力の効果も無視できません。そこで我々は光球面磁場からコロナと彩層を含む太陽大気における非フォースフリー磁場を外挿する磁気流体力学緩和法を新たに提案しました。特にこの手法では、高精度測定の難しい光球面の密度や圧力のデータを用いず、境界に与えられた磁場データのみから磁気静水圧平衡磁場を再構成します。合わせて、安定に数値計算可能な数値解法も開発しました。

 ここでは予備的な数値実験の結果を示します。下部境界の中央部にフォースフリー磁場を与え、周辺部では磁場をゼロとします。つまり、中央部が活動領域、周辺部が静穏領域に相当します。下部境界のほとんどの領域でローレンツ力はゼロですが、活動領域と静穏領域の境界で磁場が不連続に変化しローレンツ力が生じます。この条件のもと、今回提案した手法によってフォースフリー磁場、および磁気静水圧平衡非フォースフリー磁場を再構成しました。フォースフリー磁場モデルでは、下部境界の力の不均衡に起因して磁気ループが不自然に膨張しました(図1)。一方、非フォースフリー磁場モデルでは、彩層のスケールハイト H(温度が1⁄eになる高さ)と厚さZ(コロナ底部までの高さ)に依存して磁気ループの高さが変化しました(図2、3)。

ちなみに、ここでの数値実験は非常に簡単なモデルですが、下部境界の磁場を不連続に与えているため、数値計算的には非常に難しい問題です。我々が開発した数値解法は非常に安定であり、既存のフォースフリー磁場を外挿する数値手法の代替となり得ることも期待できます。

 Miyoshi, T., Kusano, K., and Inoue, S. (2020), A magnetohydrodynamic relaxation method for non-force-free magnetic field in magnetohydrostatic equilibrium, The Astrophysical Journal Supplement Series, 247:6

DOI: 10.3847/1538-4365/ab64f2
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4365/ab64f2

 
図1:フォースフリー磁場モデル。線は面内の磁力線、カラーマップは面外の磁場強度を示す。


図2:磁気静水圧平衡非フォースフリー磁場モデル、H ≈ 3 > Z ≈ 1 。線およびカラーマップは図1と同じ。


図3:磁気静水圧平衡非フォースフリー磁場モデル、H ≈ 3 < Z ≈ 4 。線およびカラーマップは図1と同じ。