PSTEP Science Nuggets No.10 (20180501)

日本の雷活動にみられる太陽自転周期の影響

宮原ひろ子(武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程研究室)

 太陽活動と気候変動には十~数千年にわたる様々な時間スケールで相関関係があることが知られています。しかし、太陽活動がどのようにして気候に影響するのか、そのメカニズムは未解明です。日射量の変動だけでは相関関係を説明できないことが知られており、太陽紫外線の影響や、銀河宇宙線による間接的な影響などの研究が進められています。

太陽活動の一番短い周期は約27日の自転周期です。太陽の自転にともなって、地球が受け取る太陽放射量に約27日の周期性が現れるほか、太陽フレアにともなうコロナ質量放出が地球を通過することなどにより銀河宇宙線の強度にも約27日の周期性が現れます。これまで、赤道域の雲活動などに約27日の周期が見られていたほか、日本でも乗鞍岳で観測された雷活動から27日周期が検出された例がありました。

気象への27日周期の影響を詳細に調べることは、太陽活動が気候変動に影響するプロセスやその影響の度合いについての手がかりを得ることにもつながります。本研究では、夏期(5-9月)の雷のデータに着目し、27日周期の影響を詳細に調べました。解析には、気象台で観測された雷のデータのほか、古日記などに残された天候の記録を用いました。

1989年以降の雷のデータからは、太陽活動が活発なときに、西日本~中部日本を中心に約27日の周期性が現れることが分かりました(図1)。黄色の丸は27日周期がやや強い県、オレンジから茶色になるに従って、周期性がより強くみられた県になります。

日本には、江戸時代にさかのぼる雷の記録が残されている地域があります。それらのデータについても、周期解析を行いました。以下では、そのうち東京についての結果を報告します。

八王子市に残る石川日記と、弘前藩庁日記(江戸日記)には、18~19世紀の150年を超える期間についての天候記録が残されています。本研究では、太陽黒点数の年平均値が150以上だった年(図2のa,d)、75~150だった年(図2のb,e)、75以下の不活発だった年(図2のc,f)に場合分けをして、雷の周期を調べました。その結果、太陽活動が活発になるにつれて、約27日の周期性が強く現れることが確認されました。八王子(図2上側)と江戸(図2下側)の両方で同じような傾向が確認されました。雷にみられる約27日の周期性が確かに太陽活動起源であることを意味しています。

現代のデータからは、太陽自転周期の影響が南西の方から伝搬してきていることも示唆されました。太陽活動の影響がまず低緯度域におよび、そしてそこから中高緯度へ波及している可能性を示唆しています。太陽活動の影響がどのようにしてもたらされているのか、さらなる研究が期待されます。

[1] Hiroko Miyahara, Chika Higuchi, Toshio Terasawa, Ryuho Kataoka, Mitsuteru Sato, Yukihiro Takahashi, Solar 27-day rotational period detected in a wide-area lightning activity in Japan, ANGEO Communicates, 35, 583-588, doi:10.5194/angeo-35-583-2017, 2017.

[2] Hiroko Miyahara, Yasuyuki Aono, Ryuho Kataoka, Searching for the 27-day solar rotational cycle in lightning events recorded in old diaries in Kyoto from the 17th to 18th century, ANGEO Communicates, 35, 1195-1200, doi: 10.5194/angeo-35-1195-2017, 2017.

[2] Hiroko Miyahara, Ryuho Kataoka, Takehiko Mikami, Masumi Zaiki, Junpei Hirano, Minoru Yoshimura, Yasuyuki Aono, and Kiyomi Iwahashi, Solar Rotational Cycle in Lightning Activity in Japan during the 18–19th Centuries, ANGEO Communicates, 36, 633-640, doi:10.5194/angeo-36-633-2018, 2018.


図1: 太陽活動の活発期における、雷の27日周期の強度。


図2: 江戸時代の八王子および江戸における雷活動の27日周期の強度。左から、太陽黒点数が150を超える年、75~150の年、75以下の年についての解析結果。