PSTEP Science Nuggets No.11 (20180509)

全大気圏-電離圏結合モデルGAIAを用いた赤道プラズマバブルの発生予測

品川裕之(情報通信研究機構)

  赤道プラズマバブルは、電離圏の電子密度が局所的に極端に低下した領域で、電離圏プラズマ中のレイリー・テイラー(R-T)不安定性によって励起されると考えられています。赤道プラズマバブルは衛星電波を用いた測位などに悪影響を及ぼすことから、今日その予測は宇宙天気予報における重要課題の一つとなっています。
 情報通信研究機構では、電離圏じょう乱の数値予測を目指して全大気圏-電離圏結合モデルGAIA(Ground-to-topside model of Atmosphere and Ionosphere for Aeronomy)を開発してきました。GAIAは、下層大気で励起されて熱圏領域まで伝搬してくる大気波動を再現するとともに、その大気波動が熱圏ダイナミクスや電離圏にどのような影響を与えるかを数値的に調べることができます。我々は実際の日々の大気圏、電離圏変動を解析するために、GAIAの30 km以下の高度領域に気象再解析データを導入したシミュレーションを行って1996年から現在までのデータベースを構築しました。
 最近の研究では、下層大気の大気波動起源の電離圏変動によってR-T不安定の成長率が変化し、その値が増大した場合に赤道プラズマバブルが頻繁に発生する傾向があることが指摘されています。我々はこの過程を確かめるため、GAIAのシミュレーションデータベースを用いて、プラズマバブルの発生頻度が高い2011年から2013年の期間について、各日毎にR-T不安定の線形成長率の最大値を求め、それを観測から得られた赤道プラズマバブル発生日と比較しました(図1)。赤道プラズマバブル発生日のデータは、インドネシア・コトタバン(東経100.32度、南緯0.2度)における赤道大気レーダー(EAR)及び全地球測位システム(GPS)の観測データから導出したものを使用しています。
 GAIAから導出されたR-T不安定の線形成長率とこの観測データを比較した結果、線形成長率が高い値を持つ日ほど、赤道プラズマバブルが発生しやすい傾向があることが明らかになりました(図2)。この結果は、R-T不安定の線形成長率が赤道プラズマバブルの発生傾向の指数として有用であることを示すとともに、全大気圏-電離圏結合モデルを用いることによって赤道プラズマバブルの発生を予測できる可能性を示している点で宇宙天気予報において大きな意義を持つと考えられます。

参考文献
Shinagawa, H., Y. Miyoshi, H. Jin, H. Fujiwara, T. Yokoyama, and Y. Otsuka (2018), Daily and seasonal variations in the linear growth rate of the Rayleigh-Taylor instability in the ionosphere obtained with GAIA, Progress in Earth and Planetary Science, 5:16 https://doi.org/10.1186/s40645-018-0175-8
https://progearthplanetsci.springeropen.com/articles/10.1186/s40645-018-0175-8
GAIAモデル http://seg-web.nict.go.jp/GAIA/

図1 GAIAで求められたインドネシア・コトタバン上空の電離圏における2011年から2013年までのレイリー・テイラー不安定性の線形成長率の日々変動(黒の実線)。緑と赤の縦棒は、GPS(緑)と赤道大気レーダー(EAR)(赤)でプラズマバブルが観測された日を示す。

図2 GAIAで求められたR-T不安定の線形成長率とプラズマバブルが発生した日の割合を示すヒストグラム。線形成長率が大きい日ほどプラズマバブルの発生率が高いことがわかる。