PSTEP Science Nuggets No.15 (20180827)

太陽系へ噴出していく太陽極域ジェットを皆既日食でとらえた

国立天文台 花岡 庸一郎

 太陽表面からコロナの中へジェットが噴き出している、ということは、人工衛星による軟X線や紫外線の観測によって良く知られていますが、ジェットにより噴き出したプラズマがどこまで到達しているのか、太陽系にまで噴出して地球にも影響を及ぼす可能性があるのか、はよくわかっていませんでした。これは軟X線・紫外線観測ではコロナの低空だけを見ているからです。

一方皆既日食は、コロナの構造を太陽表面近くから数百万km上空まで一度にとらえられる稀有な機会です。皆既日食はひとつの観測地点ではたかだか数分間しか見えませんが、多地点で観測データが得られれば、この間のコロナの時間変化を追跡できます。2017年8月21日の皆既日食では、本影が北米大陸を約90分かけて横断したので、多地点観測の絶好の機会となりました。私たちはこの日食をアマチュア天文家とともに観測し、7カ所で白色光コロナのデータを得ることに成功しました。

この観測で、極域コロナホールから上空に延びるポーラープリュームの中に、6個のジェット状の上昇流(日食ジェット)がとらえられました。図1はそのうちのひとつです。左側はジェット発生前で、右側の紫外線拡大像では18:01UTにジェットが10万kmを超える上空に伸びています。さらに 27分後の18:28UTの日食の画像ではこのジェットがはるか上空100万kmを超えるところまで達しています。観測されたジェットの平均上昇速度は毎秒約450 kmにも及び、これらジェットは最終的には太陽系へと噴出していっていると考えられます。

日食で見えた他のジェットでもやはり紫外線・X線ジェットが先だって発生しており、日食ジェットは紫外線・X線ジェットが上空まで伸びたものが見えていると考えられます。一方、日食時間帯に極域で見えたEUV ジェットは、図2 に示したように他にも多数あります。ところが、このうちある程度(図2の点線) 以上明るく、かつ日食時間帯に近いものは、全て日食ジェットとしても見えています。また、図2 に緑色で示したX 線ジェットも、ほぼEUV・日食両方で見えたジェットと重なっています。つまり、従来コロナの底部の現象として認識されてきた極域ジェット(非常に大きなものが上空にまで達することがあることは知られていましたが)は、実際には通常の規模のものなら実際にははるか上空の100 万km 以上上空まで吹き上がり、さらに遠方へと噴出していっていることが明らかになったわけです。

太陽の極域からは高速太陽風が噴き出しており、その一部は地球へも到達していて、地球に様々な影響を及ぼします。今回、日食以外では困難なコロナの上空までの観測と衛星による紫外線・X線観測を組み合わせることにより、太陽表面から遠方まで切れ目なくコロナをとらえた結果、極域ジェットがその太陽風の源泉の一部となる様子をとらえることができました。(紫外線画像は、NASA SDO及びAIA科学チーム提供による)

Hanaoka et al. 2018, “Solar Coronal Jets Extending to High Altitudes Observed During the 2017 August 21 Total Eclipse”, Astrophysical Journal 860, 142 (DOI:10.3847/1538-4357/aac49b)


図1. 紫外線(SDO衛星AIA装置による211Å画像)及び日食で見えたジェットの例。左がジェットの発生前、右が発生後で、矢印で示したものがジェットです。それぞれの左上隅は、日食画像の四角で囲った部分の紫外線での拡大像です。日食画像は見やすいように画像処理してあります。


図 2. 紫外線(211Å)で観測されたジェットの発生時刻と輝度。日食ジェットを伴ったものは大きい菱形で、またX 線(ひので衛星XRT)でも観測されたものは緑色で示しました。7カ所での日食の観測時刻は三角で示しています。