PSTEP Science Nuggets No.16 (20180911)

エネルギーは螺旋を描きながら地球にやってくる:太陽風から地球に至るエネルギーの流れを明らかに

京都大学生存圏研究所 海老原祐輔

磁気圏や電離圏が乱れると送電網の設備は深刻なダメージを受けることがあります。地上に誘導された電流(geomagnetically induced current, GIC)が強く流れるためです。日常的にGICの影響を強く受けるのは高緯度地域とくにオーロラ帯だと言われています。ここではオーロラ爆発(オーロラ・ブレイクアップ)がおこるたびに数百万アンペアものジェット電流が上空の電離圏を流れています。オーロラ爆発の継続時間は1時間程度ですが、数日続く磁気嵐と呼ばれる現象がおこると日本のような低緯度地域でもGICが強く流れることが観測的に知られています。リングカレントや沿磁力線電流などの様々な電流系が発達するによって低緯度でもGICが誘導されるためです。こうしたオーロラ爆発や磁気嵐のエネルギーの源は太陽風にありますが、どのように地球まで運ばれてくるのかについてはよく分かっていませんでした。

田中高史九州大学名誉教授が開発した電磁流体シミュレーションの結果を解析し、太陽風由来のエネルギーの流れと変換過程を明らかにしました。惑星間空間磁場が南を向くと磁気圏の高緯度地方にある発電機(ダイナモ)によって太陽風のエネルギーが電磁エネルギーに変換されます。この発電機の重要性は田中高史名誉教授によってすでに指摘されているところです。今回の研究では磁気圏に流入した電磁エネルギーを追跡しました。すると螺旋を描きながら地球に到達していることがわかりました(図1)。螺旋を描きながら地球に向かうのは磁気圏に大規模な対流構造と大規模な沿磁力線電流があるためです。惑星間空間磁場が南を向いて40~60分が経つと磁気圏の夜側で磁力線の一部が再結合します。すると磁気圏の構造が急変し、磁気圏夜側の地球近傍で発電機(ダイナモ)が現れ、内部エネルギーから(運動エネルギーを経て)電磁エネルギーへの変換がはじめます。この内部エネルギーはもともと磁気圏内の電磁エネルギーであったものです。オーロラ爆発が始まるときには、太陽風から直接やってくる電磁エネルギー、磁気圏の高緯度地方で変換された電磁エネルギー、磁気圏尾部(ローブ)で解放された電磁エネルギー、地球近くで発生した電磁エネルギーが合わさり、膨大なエネルギーが夜側の極域電離圏に一気に注ぎ込むのです。また、地球近傍で電磁エネルギーが内部エネルギーに一旦変換され、運動エネルギーを経て再び電磁エネルギーに戻るという変換過程も分かりました。電磁エネルギーが一旦内部エネルギーに変換されることの必然性は未だ理解できていませんが、極域の狭い領域に電磁エネルギーを集中的に流し込むために重要な役割を果たしていることは明らかです。


図1:(白線)電磁エネルギーの流れ、(青線)磁力線、(黄線)オーロラ爆発が始まる磁力線、(青面)電磁エネルギーが生成されている場所(ダイナモ)を示す。左はオーロラ爆発発生15分前、右はオーロラ爆発発生時のもの。(Ebihara and Tanaka, 2017を改変)

参考文献
Ebihara, Y., and T. Tanaka, Energy flow exciting field-aligned current at substorm expansion onset, Journal of Geophysical Research: Space Physics, 122, doi:10.1002/2017JA024294, 2017.