PSTEP Science Nuggets No.17 (20180911)

オーロラ・サージはなぜ西に進む?

京都大学生存圏研究所 海老原祐輔

サブストームと呼ばれる大規模な擾乱があります。極めて明るいオーロラが西向きに移動するオーロラ・サージはサブストームを特徴づける現象の一つです。サブストームが起こると磁気圏や電離圏の状態が大きく変わります。例えば、プラズマシートのプラズマが地球方向に注入されて放射線帯の種となったり、リングカレントを増強したりします。一方、電離圏では数千億ワットのものエネルギーが消費され、電離圏を膨張させます。その影響の大きさから、磁気圏と電離圏のダイナミクスを理解する上でサブストームの理解は不可欠といえるでしょう。また、サブストームが発生すると人工衛星の内部帯電の原因となる放射線帯が増えたり、人工衛星の表面帯電の原因となる高温電子が増えたりするため、宇宙天気の観点からもサブストームを正しく理解することは重要です。

オーロラ・サージに関する主な疑問は「なぜ西に移動するのか」「なぜ極めて明るく光るのか」でしょう。オーロラ・サージの特徴を良く再現することが出来る電磁流体シミュレーションの結果(図1)を詳細に解析し、その仕組みを明らかにしました。その結果は以下の通りです(図2)。このシミュレーションは田中高史九州大学名誉教授が開発したもので、オーロラ・サージのほかに、quiet arc、sun-aligned arc、theta auroraなど多様なオーロラ構造を良く再現することが知られています。

(1)磁気圏尾部で起こる磁力線の再結合をきっかけとして磁気圏構造が変わり、磁気圏高高度でプラズマのシアー運動がおこる。
(2)上向き沿磁力線が発生し、電離圏に接続した瞬間に電離圏の一部でオーロラが明るくなる。(電離圏電気伝導度が上がる。)
(3)明るいオーロラの中を流れる電離圏ホール電流は周囲と比べて多い。そのため、一方の端で電離圏を流れるホール電流が余り正の電荷が溜まる。(発散型の電場が発生する。)
(4)発散型の電場に対応したプラズマのシアー運動が磁気圏低高度で起こる。(シアーの向きは高高度磁気圏で起こるシアーの向きとは逆である。)
(5)電離圏側の要請で上向き沿磁力線電流が増強する。
(6)オーロラが増光する。
(7)明るいオーロラの反対側の端では逆のことがおこる。すなわち、ホール電流が不足して負の電荷が溜まる。(収束型の電場が発生する。)
(8)収束型の電場に対応したシアー運動が磁気圏低高度で起き、上向きの沿磁力線電流が弱まる。
(9)オーロラが減光する。
(10)一方の端でオーロラが増光し、もう一方の端でオーロラが減光する。このことを繰り返すことでサージが西方向もしくは極方向に移動する。

電磁流体シミュレーションでは電離圏への電子の降り込みを直接表現することができません。そこで、上向きの沿磁力線電流が流れているところで電離圏の電気伝導度を上げ、明るいオーロラを模擬しています。下向きの沿磁力線電流が流れているところでは殆ど電気伝導度を上げていません。実際の観測でもそうなっていることが分かっています。シミュレーションによると、この非対称性のために西向きに移動するサージのみが現れるようです。このことを確認するため仮想実験を行いました。シミュレーションの中ではサージの東側で下向きの沿磁力線電流が流れていますが、下向きの沿磁力線電流が流れる領域でも電離圏の電気伝導度を上げてみたのです。すると、西向きに進むサージに加え東向きに進むサージも現れました。つまり、電離圏の電気伝導度に著しい空間変化があればサージは現れるのです。

電磁流体シミュレーションの結果を解析すると、オーロラ・サージは磁気圏と電離圏が密接に連携しながら発生していることがわかりました。そして東向きに進むサージが現れにくい理由もわかりました。現実のオーロラではどうなっているのでしょうか。レーダー、衛星、オーロラを組み合わせた多角的な観測が待ち望まれます。


図1:(上)人工衛星が観測したオーロラ爆発、(下)電磁流体シミュレーションで再現したオーロラ爆発


図2:電磁流体シミュレーションで見られたオーロラ・サージの発生の仕組み。(Ebihara and Tanaka, 2018を改変)

参考文献
Ebihara, Y., and T. Tanaka, Why does substorm-associated auroral surge travel westward?, Plasma Physics and Controlled Fusion, 60 014024, doi:10.1088/1361-6587/aa89fd, 2018.