PSTEP Science Nuggets No.19 (20190108)

太陽の対流層の底から表面までを一貫して解いた数値計算

千葉大学 堀田英之

太陽内部の外層30%は対流層と呼ばれ、乱流的な熱対流で埋め尽くされています。太陽の対流層は「強く」成層していることが特徴となっています。ここで「強い」成層とは、成層の下部と上部で密度が何桁も変わることを表しています。太陽対流層の場合は、密度が106程度変化し、それに伴い熱対流の空間スケールや時間スケールが大きく変わります。例えば、対流層の底では熱対流の時間・空間スケールは、それぞれ1ヶ月・200 Mmであるのに対して、太陽表面では数分・1 Mmとなっています。この極端なスケール差を一つの計算の中で包括することは困難であるために、これまでは太陽の深い部分と浅い部分は分けられて計算されてきました。一方で、最近の理論・観測により、深い部分のみを計算した場合に太陽で考えられているよりも1桁ほど大きい熱対流速度が実現されている可能性が高いということが指摘されてきました。これまでに多くの研究で、深い部分で熱対流速度を誤って実現してしまうのは、熱対流の駆動領域である表面を取り入れていないためだと考えられてきました。
 今回我々は、太陽表面を正しく取り扱うために状態方程式と輻射輸送をできるだけ現実を再現するように取り入れつつ、大規模なスーパーコンピュータを用いても性能が落ちない方法を開発しました。そのようにして新しく開発された数値計算コードR2D2 (Radiation and RSST for Deep Dynamics)を用いて、世界で初めて対流層の底から表面までを包括した計算を行いました。本研究では、これまでと同様に太陽表面は取り入れない計算も同様に実行し、太陽表面を取り入れた場合にどのように熱対流構造が変化するかを調べました。
図1にエントロピーの擾乱を用いて熱対流の様子を示しています。太陽表面の1 Mmスケールの熱対流が何度も合体し、200 Mmスケールの熱対流を構成する様子が再現されています。論文には、動画も投稿してあるので参照してください。また図2には、太陽表面を取り入れた場合(赤線)と取り入れなかった場合(黒線)の熱対流速度の比較を示しています。短いスケールを持つ表面での輻射冷却のせいで、表面近くは表面を取り入れた場合の方に速度が大きくなっていますが、対流層深部では、二つのケースで熱対流速度がほぼ一致することがわかりました。これは、表面付近では短いスケール長により混合が効率的に起こり、その影響が短い距離で無くなってしまうことが原因だと突き止めました。
 光球を取り入れたとしてもこれまでの問題は解決できず、何か抜本的な修正案が必要な状況となりました。しかし、太陽表面から対流層の底まで一貫して解く手法を開発することができたので、今後は観測・理論を組み合わせることにより、太陽深部の理解は飛躍的に発展することが期待されます。

図1:エントロピー擾乱のスナップショット。エントロピーの値から水平平均を引き、擾乱として上で、水平方向のエントロピー擾乱の分散で規格化しています。

図2:横軸を太陽中心からの距離とした熱対流速度の分散を示しています。赤線、黒線はそれぞれ太陽表面がある時、ない時の計算結果です。

参考文献
H. Hotta, H. Iijima, & K. Kusano, “Weak influence of near-surface layer on solar deep convection zone revealed by comprehensive simulation from base to surface”, Science Advances, 5, 1, 2019