PSTEP Science Nuggets No.2 (20161019)

大規模数値計算による太陽全球スケールの磁場生成機構の理解

堀田英之(千葉大学)

 400年以上の継続した黒点の観測により、太陽には11年の磁場活動周期があることがわかっている。これは太陽ダイナモ問題と呼ばれ、太陽物理学の中の重要な未解決問題となっている。太陽活動は、太陽系システムに直接的な影響を持つために、太陽ダイナモ問題を理解することは、宇宙天気にとっても重要と考えられている。
太陽の対流層は高度に乱流的な状態にあるにもかかわらず、11年周期にはそれにともなう蝶形図やヘールの法則と言った全球的なルールがあることが知られている。しかし、ひので衛星は太陽対流層が非常に効率的な小スケールダイナモで満たされていることを明らかにした。小スケールは非常に短い時間スケールを持つ効率的なダイナモであり、容易に大スケールの磁場を壊してしまうことが知られている。最近の高解像度計算でも、小スケールダイナモが大スケールの磁場を壊してしまうことが示唆されている。解像度があがると、小スケールの運動が効率的になり、この小スケールの運動が大スケールの磁場を壊してしまうのである。数値計算という観点からは太陽は超高解像度の流体であり、大きなレイノルズ数を持つ、実際の太陽でどのように磁場が維持されているのかは謎になっている。
この問題を解決するために、我々はスーパーコンピュータ京と音速抑制法を用いて、これまでにない高解像度の数値計算を実行した。これまでに実行できていた程度の解像度ならば解像度をあげるに従って、大スケールの磁場が弱くなっていってしまった。これは、これまでの研究と調和的である。しかし、これまでにない高解像度計算では、再度大スケール磁場が強くなることを発見した。このような高解像度では、小スケールダイナモが非常に活発になり、小スケールで磁場のエネルギーが運動エネルギーよりも大きくなったのだ。そのため、この強い磁場が大スケールの磁場を壊していた小スケールの破壊運動を抑制し、大スケールの磁場が維持されたのである。我々はとても大きいレイノルズ数でも磁場を維持できる非常に重要な機構を発見したと考えている。

Hotta, H., Rempel, M., and Yokohama, T. (2016), Large-scale magnetic fields at high Reynolds numbers in magnetohydrodynamic simulations, Science, 351, 6280, 1427-1430
DOI: 10.1126/science.aad1893
http://science.sciencemag.org/content/351/6280/1427

fig1 図1 上部境界付近での動径方向速度(左)と動径方向磁場(右) fig2 図2 対流層の底付近の経度方向平均をした経度方向磁場