PSTEP Science Nuggets No.20 (20190227)

太陽サイクル24最大の太陽フレアの電磁流体力学シミュレーション

名古屋大学 井上 諭

2017年9月に観測された活動領域12673(図1aで囲まれた領域)において、太陽サイクル24において最大級の太陽フレアが連続して発生しました。特に、9月6日には、サイクル24において最大のX9.3フレアが観測されて話題になりました。この太陽フレアに伴い、大量のプラズマガスと磁場が惑星間空間に放出され、地球磁気圏・電離圏に多大な影響を及ぼしました。

本研究では、X9.3フレアを起こした太陽活動領域12673の3次元の磁場構造と、フレアの発生過程、さらにはフレアに伴う磁場とプラズマの放出過程を数値的に調べました。まず、太陽フレア前に観測された太陽表面である光球面の磁場から、フォースフリー近似に基づいて3次元の磁場を数値的に外挿しました(詳細は、Science Nuggets No.7をご覧下さい)。次に、外挿された磁場を初期条件とした電磁流体力学(MHD)シミュレーションを実施することで、フレアの発生過程から、磁場とプラズマの放出過程まで調べました。

その結果、図1bのように、フレア前にはねじれた磁力線群(磁気フラックスロープ)が南北方向に存在していることがわかりました。また、磁気フラックスロープは強い電流を有しており、フレアを起こす自由エネルギーを蓄えていることがわかります。図2に、磁場の放出過程のMHDシミュレーションの結果を示します。初期には複数のねじれた磁力線群が南北方向に存在しており、その一部が不安定(あるいは非平衡)に陥ると、全体の構造が平衡状態を失い、その結果、磁気リコネクションを介して、巨大な磁気フラックスロープを形成することがわかりました。放出される磁気フラックスロープの下には、強い電流シート構造やポストプレアループが再現され、フレアの標準モデルであるCSHKPモデルをよく説明しています。また、磁気フラックスロープが回転する様子も再現され、地球の電磁場環境に多大な影響を与えた南向き磁場の形成に寄与している可能性も示唆されました。


図1:(a)SDO/AIA 131Åで観測されたX9.3フレア前の太陽全面の極端紫外線像。四角で囲まれた部分が活動領域12673に相当する。(b) X9.3フレア前にSDO/HMIが観測した太陽表面(光球面)磁場から数値的に外挿された3次元の磁場構造。線は磁力線を表しており、色は電流の値を示している。

図2: 噴出する磁気フラックスロープのダイナミクスの時間発展。線は磁力線を表しており、縦の断面図には電流値を磁場で割った値(|J|/|B|)をプロットしている。

参考文献
Satoshi Inoue, Daikou Shiota, Yumi Bamba, & Sung-Hong Park, “Magnetohydrodynamic Modeling of a Solar Eruption Associated with an X9.3 Flare Observed in the Active Region 12673”, The Astrophysical Journal Volume 867, Issue 1, article id.83 (2018)
http://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aae079/meta
Magnetohydrodynamic Modeling of Largest solar flare in Solar Cycle 24