PSTEP Science Nuggets No.21 (20190328)

太陽表面の小さな磁気擾乱が、大規模な噴出現象を引き起こす⁉

宇宙航空研究開発機構/名古屋大学 伴場由美

 太陽フレアやコロナ質量放出(CME)は、地球周辺の宇宙環境を擾乱することがあり、これらの発生過程を理解することは、太陽物理学上の基本的課題として重要であるとともに、宇宙天気予報の精度向上のためにも必要不可欠です。過去の観測から経験的に、例えばX クラスと呼ばれるような大規模な太陽フレアが発生すると、CMEが発生し、地球周辺の宇宙環境が擾乱される、と大まかに考えられてきました。しかし、Cクラスフレアと呼ばれる、Xクラスフレアの100分の1のエネルギーしか解放できないような小規模フレアであっても、地球周辺の宇宙環境を大きく擾乱する噴出現象を伴うこともあります。実際、2015年3月17日に発生した、今太陽活動周期最大の磁気嵐、いわゆるSt Patrick’s day stormは、その2日前の3月15日にC9.1クラスという小規模フレアに伴って発生したCME によって引き起こされました。なぜ小規模なCクラスフレアが、大規模な磁気嵐を引き起こしたのでしょうか。この疑問に答えるため、我々は当該C9.1フレアと、さらにその直前に発生したより小規模なC2.4フレアに着目し、それらの発生過程を詳細に研究しました。

  フレアやCMEは、コロナと呼ばれる太陽大気中で、周りよりも温度が低いプラズマが磁場に支えられて浮かんでいる構造である「フィラメント」の噴出に関連して発生することが多くあります。3月15日のC9.1フレアは、フィラメントが複数存在する、非常に複雑な磁場構造を持つ領域で発生し、そのうちの1つのフィラメントが噴出したことでCMEが発生しました。我々は、日本の太陽観測衛星「ひので」および米国のSolar Dynamics Obserbatory (SDO) 衛星のデータ、さらに非線形フォースフリー磁場モデリング(Science Nuggets No.6, No.7参照)を用いて、噴出したフィラメント周辺の磁場構造および太陽大気中で見られた発光現象を詳細に解析しました。その結果、フィラメントを支えている磁場の根元付近に、局所的に非常に強くねじれた磁力線群を発見しました。さらにその領域で、フィラメント噴出発生の約1時間前にC2.4フレアが発生したことが、フィラメントの不安定化を促進し噴出へと導いたことがわかりました。加えて、そのC2.4フレアの発生前には、局所的に強くねじれた磁力線群の真下で、太陽面上で700km程度という極めて小さな発光現象が観測されました。このような発光現象は、太陽内部からの微小な磁束の浮上や、それらの対消滅などといった磁気擾乱によって生じることが、過去の多くの研究で示されています。したがって、我々の解析結果から、局所的に非常に強くねじれた磁力線群の存在する領域に現れた、わずか700km程度という小さな磁気擾乱が、小規模な爆発・噴出現象であるC2.4フレアを引き起こし、さらにその近接領域に根ざしていた、フィラメントを支える磁場を擾乱したことで、大規模なフィラメント噴出を誘発したことを明らかにしました。この大規模なフィラメント噴出に伴うCMEが、今太陽活動周期最大の磁気嵐St Patrick’s day stormを引き起こしたのです。


図 1: C2.4フレア発生前後のフィラメント構造およびフレア発光の時間変化。(a) C9.1フレアで噴出する大フィラメントF1 と、それを支える磁場の根元付近に存在するsmall filament として観測された、局所的に強くねじれた磁力線群。(b) C2.4フレアのフレア発光の様子。(c) small filamentの噴出の様子。噴出方向は青い矢印で示される。


図 2: ひので衛星が観測した、C2.4フレア発生領域の詳細な構造。(a) C2.4フレア発生前にsmall filamentの真下で観測された、微小な前兆発光現象(白い矢印でPBと示される構造)。(b) (a)の白の四角で囲まれた領域の光球面磁場構造。背景の白/黒は視線方向磁場の正極/負極を±2000Gの範囲で表す。緑の線は磁気中性線を、白と黒の矢印は磁場の水平成分 (100G以上のもの) を表す。赤い十字の印は微小発光PBが見られた場所を示す。


図 3: SDO衛星が観測した、噴出する大フィラメントF1の時間変化。(a) 噴出するフィラメント F1(白い矢印で示されている構造)。(b) F1を(a)に示す白線に沿って切り出し、時間方向に並べたもの。横軸が時間、縦方向が(a)の白線に対応する。C2.4, C9.1それぞれのフレア発生時刻を青線、緑線で示した。また、白の破線の間の時刻で、small filamentの真下で微小な前兆発光現象PBが見られた。

<論文情報>
Bamba Y., Inoue S., and Hayashi K., “The Role of a Tiny Brightening in a Huge Geo-effective Solar Eruption Leading to the St Patrick’s Day Storm”, The Astrophysical Journal, 874, 73 (11pp), 2019, doi:10.3847/1538-4357/ab06ff