Science Nuggets No.23 (20190423)

IPS観測から太陽嵐を予報する ―データ同化型宇宙天気予報モデルの開発―

名古屋大学 岩井一正

 太陽では大小様々な爆発現象が発生し、太陽大気の一部が「コロナ質量放出(CME)」として宇宙空間に向けて放出されます。CMEは地球に到来すると地球周辺環境に擾乱をもたらし、電波通信や人工衛星・航空機の航行、GPS測位など、社会生活に様々な影響を与えることがあります。そのため、CMEの到来を事前に予報することが重要です。
 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)では独自の大型電波望遠鏡を用いた惑星間空間シンチレーション観測(IPS観測)から太陽風やCMEの観測を行っています。IPS観測では、太陽系外の天体を電波観測し、その観測中にCMEが天体と地球との間を横切ると、天体からの電波を散乱することからCMEを検出できます(図1)。本研究では、日本の宇宙天気予報業務を担う情報通信研究機構(NICT)で開発が進められるCMEの予測モデルに、名古屋大学ISEEのIPS観測データを同化させることで、予報精度を高める開発研究を行いました。
 本システムでは、まず可視光のコロナグラフ観測からCMEの初期速度を求め、内部太陽圏のシミュレーション SUSANOO-CMEを用いて伝搬の数値シミュレーションを行います。そこで得られる内部太陽圏の3次元密度分布を元に、地球から各電波天体への視線に沿った電波の散乱を解くことで擬似的なIPSデータが再現されます。この計算を複数のCME初期速度で行い、それぞれから得られる擬似IPSデータの中から、実際にISEEで観測されたIPSデータに最も近い結果を選択し、そのCMEの地球への到来時刻を予報値とします(図2)。2017年9月に発生したCMEに対して本シミュレーションを行った結果、実際のIPS観測に最も近い擬似IPSデータがCMEの地球への到来を最もよく予報できることが示唆されました。この結果は、IPSデータを用いることでCMEの予報精度を向上させることが可能であることを意味します。現在、本システムをNICTの予報業務に実装する作業が進められています。

参考文献
Kazumasa Iwai, Daikou Shiota, Munetoshi Tokumaru, Ken’ichi Fujiki, Mitsue Den, Yûki Kubo, “Development of a coronal mass ejection arrival time forecasting system using interplanetary scintillation observations”
Earth, Planets and Space, 71,39, 2019, https://doi.org/10.1186/s40623-019-1019-5

図1: IPS観測によってCMEの接近を検出する模式図。観測対象である電波天体と地球との間にCME前面に形成される高密度領域が通過すると、天体からの電波が強く散乱されることを図示している。

図2:左:本研究で開発した予報システムによって計算された擬似IPSデータの分布。右:名古屋大学ISEEによって実際に観測されたIPSデータ