Science Nuggets No.26 (20200122)

電波観測から得られた太陽高エネルギー粒子の予報につながる新発見

名古屋大学 岩井一正

 太陽フレアやコロナ質量放出現象(CME)では太陽高エネルギー粒子(Solar Energetic Particles: SEP)とよばれる高エネルギー粒子が生成されます。SEPは人工衛星の障害や高緯度を飛行する航空機における被曝などの原因となるため、その予報は宇宙天気予報にとって非常に重要な課題です。PSTEPでは、SEPの特徴を捉え予報に役立てる知見を得るため、データ解析ワークショップ(PSTEP-SEP-CDAW https://sites.google.com/view/pstep-cdaw/home?authuser=0)を2018年と2019年に開催しました。その結果の一部をご紹介します。
 数100kHzから数MHzの周波数帯域にかけて発生するII型電波バーストは、発生領域がコロナ外部から惑星間空間に対応し、コロナ質量放出(CME)の発生とよく対応することから、CMEによって励起された衝撃波と関係していると考えられています。そこで本研究では、惑星間空間で発生するII型電波バーストのスペクトルの特徴(図1)と、同じくCMEと関連が深いことがわかっている gradual SEPの関係を調査しました。
 電波バーストとSEPの統計的関係を無バイアスに抽出するため、両者の特徴に関係なく、SOHO衛星に搭載された白色光コロナグラフLASCOで観測されたCMEから、初期速度、広がり角、放出場所が近い26のイベントを抽出しました。そして、抽出されたCMEイベントに伴う電波バーストのスペクトルの特徴をWIND衛星に搭載されたWAVESから、SEPの地球近傍におけるフラックスをGOES衛星から、それぞれ導出しました。その結果、300kHzから1MHzにおけるII型バーストのバンド幅とSEPのピークフラックスには相関係数0.64の正相関があることがわかりました(図2)。この結果は、II型バーストの電波放射を引き起こす非熱的な電子と非熱的イオンであるSEPが同じ衝撃波で生成されていることを支持します。II型バーストのバンド幅は衝撃波の広がりや強さに関連すると考えられるため、より幅広い、またはより強い衝撃波では、より多くのSEPが生成されるようです。本結果は、電波バーストのスペクトルの特徴を考慮することによってgradual SEPのピークフラックスの予報精度が高まる可能性を示唆し、今後予報に役立てられることが期待されます。

参考文献
Kazumasa Iwai, Seiji Yashiro, Nariaki V. Nitta, and Yûki Kubo
“Spectral Structures of Type II Solar Radio Bursts and Solar Energetic Particles”
The Astrophysical Journal, 888:50
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab57ff


図1 典型的な惑星間空間II型バーストのダイナミックスペクトル。Type-IIと示された時間の経過とともに発生周波数が低くなる現象がII型バースト。


図2 II型バーストのバンド幅とSEPのフラックスの相関関係。