PSTEP Science Nuggets No.7 (20170821)

四重極磁場活動領域のフレアに至るまでのエネルギー蓄積過程

川畑佑典(宇宙科学研究所)

太陽大気で発生する爆発現象であるフレアは上空大気のコロナに蓄えられた磁気エネルギーが急速に解放されることで起こると考えられています。コロナに蓄えられた磁気エネルギーはすべてフレアに使われるわけではなく、エネルギーの最低状態(ポテンシャル磁場)からの差分のエネルギー(自由エネルギー)のみがフレアに用いることのできるエネルギーとなります。太陽コロナでいつ・どこで・どのように自由エネルギーが蓄えられているかを知ることはフレアの発生機構を理解する上で非常に重要な課題です。観測上の問題点として、現在の観測技術では太陽表面(光球)の磁場しか取得できないという点があります。フレアが頻発するような領域は単純な双極磁場ではなく、四重極構造の様な複雑な3次元磁場構造を持つ場合が多い為、光球の磁場のみでなくコロナの3次元磁場構造を取得し、自由エネルギー分布を探ることが必要となります。そこで本研究では、コロナではローレンツ力が支配的であるという仮定に基づきコロナの磁場を光球磁場から外挿するという非線形フォースフリー磁場(Nonlinear force-free field; NLFFF)モデリングを行いました。2014年2月2日に3つのMクラスフレアを起こした複雑な四重極の磁場構造を持つ活動領域(AR 11967、図1左)を解析対象とし、「ひので」で観測された時系列光球磁場データにNLFFFモデリングを適用することで (図1右)、コロナの自由エネルギー分布の時系列変化を調べました。その結果、自由エネルギーが最初のフレア発生の10時間以上前に、局在化した領域において、十分に蓄えられていることを明らかにしました(図2右上黄色枠)。また最初のフレア発生の直前に自由エネルギーが減少している領域があることを発見しました(図2右下白枠)。この結果はフレア直前に起きた小さなエネルギー解放現象が全体の磁場構造を不安定化させ、フレアの大きなエネルギー解放を駆動する摂動として働いていたことを示唆しています。

Y. Kawabata, S. Inoue, and T. Shimizu, “Non-potential Field Formation in the X-shaped Quadrupole Magnetic Field Configuration”, The Astrophysical Journal, 842, 106, 2017

http://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aa71a0/meta


図 1:(左)NASAのSolar Dynamics Observatoryの極端紫外線で観測された活動領域11967のフレア時の画像。(右)白黒:「ひので」で観測された太陽表面磁場。実線(青赤緑黄):NLFFFモデリングで再現されたコロナの磁力線。赤枠は図2の視野。


図 2:自由エネルギーの空間分布の時系列変化。太陽面に対し鉛直方向に平均している。黄色枠内で急激な増加が見られ、白枠で減少が見られる。