PSTEP Science Nuggets No.9 (20180417)

表面磁束輸送モデルに基づく次期太陽活動度の予測

飯島陽久(名古屋大学)

太陽黒点は強大な磁気エネルギーを持っており、 フレアやコロナ質量放出などの爆発現象を通して、 太陽地球圏環境を変動させる源になっています。 黒点は約11年周期周期で増減することが知られています。 10年程度の時間スケールで宇宙天気を予報しようと思うと、 次の太陽周期でどのくらいの数の太陽黒点が生まれるのかを 前もって知ることが必要になります。

本研究では、表面磁束輸送モデル(SFTモデル)を利用して、 次期太陽周期の予測を試みました。 SFTモデルは、太陽表面を貫く磁場が、太陽表面の対流運動によって流され、 壊されていく様子を記述する物理モデルです。 このモデルの大きな利点は、必要なパラメータの大部分が 観測から詳細に決定出来ることです。 太陽表面の磁場観測データとモデルを上手く合わせてやることで極磁場を精度よく予測し、 極磁場と良い比例関係にある将来の黒点数を予測しようというのが、我々の戦略です。

SFTモデルにおける最大の不確定性が、 新たな黒点の出現をどのように予測するかという点です。 我々は、Wilcox太陽観測所の地上観測や、 SDO、SOHOなどの太陽観測衛星による 太陽表面の磁場観測とSFTモデルを注意深く比較することで、 各サイクルの極小期前の数年間において、 新たな黒点の出現による極磁場への寄与を無視できる、 という予想外の性質があることを発見しました。 この性質を利用すると、黒点出現のモデル化をせずとも 極小期における極磁場を精度よく予測することが可能になります。 本手法に基づくと、次期太陽周期の最大黒点数は、 現太陽周期より10–20%程度少なくなると予測することが出来ます。

Iijima, H., Hotta, H., Imada, S., Kusano, K., and Shiota, D. (2017), Improvement of solar-cycle prediction: Plateau of solar axial dipole moment, Astronomy & Astrophysics, 607, L2
DOI: 10.1051/0004-6361/201731813
https://www.aanda.org/articles/aa/abs/2017/11/aa31813-17/aa31813-17.html


図1: 太陽周期21〜24での極磁場の時間発展。


図2: 次期太陽周期の最大黒点数の予測結果。