PSTEP Science Nuggets No.3 (20161110)

太陽圏プラズマシートの地球磁気圏への衝突に伴う放射線帯粒子の地球への降り込みと、それが気候変動へ与える影響の可能性

塩川和夫(名古屋大学, ISEE)

この研究では、私たちは、太陽圏のプラズマシート(HPS)が地球磁気圏へ衝突する際に発生する電磁イオンサイクロトロン波動が、放射線帯粒子を散乱して地球大気に降りこませる消失効果を見積もり、その降り込みが地球の大気を変動させ、地球の気候変動を引き起こす可能性を議論しています。HPSが磁気圏境界面に衝突して外部磁気圏を圧縮することにより、磁気圏のイオンのベータトロン加速を引き起こし、それによって発生した電磁イオンサイクロトロン波動の温度異方性が、地球磁気圏の放射線帯電子を散乱します。この散乱は、放射線帯電子を大気に降りこませて、この電子の急激な減少を引き起こしますが、この大気への降りこみの全エネルギーは3x10の20乗エルグという大きなエネルギー量であると見積もられました。このエネルギーの散逸量は高度30-50kmと30km以下で見積もられていますが、この高度におけるエネルギー散逸は地球の気候に影響を与える可能性があります。実際、Wilcox et al. (1973)は、太陽圏の電流シートの境界が地球に衝突する時期と、大気圧300mb高度における大気の渦度の中心に相関があることを指摘していますし、Tinsley et al. (1994)は粒子の地球大気への降りこみに伴うグローバルな電流回路のモデルを提唱しています。この論文ではそれ以外にも可能性のあるシナリオを議論しています。

Tsurutani, B. T., R. Hajra, T. Tanimori, A. Takada, B. Remya, A. J. Mannucci, G. S. Lakhina, J. U. Kozyra, K. Shiokawa, L. C. Lee, E. Echer, R. V. Reddy, and W. D. Gonzalez, Heliospheric Plasma Sheet (HPS) Impingement onto the Magnetosphere as a Cause of Relativistic Electron Dropouts (REDs) via Coherent EMIC Wave Scattering with Possible Consequences for Climate Change Mechanisms, J. Geophys. Res., 121.
DOI: 10.1002/2016JA022499, 2016.
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図1.太陽圏のプラズマシート(HPS)が地球磁気圏へ衝突して電磁イオンサイクロトロン(EMIC)波動が発生し、放射線帯粒子を散乱して地球大気に降りこませる。この降り込みが地球の大気を変動させる可能性を示す。

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図2. 太陽風の圧力パルス(上)と、アサバスカ(中、磁気緯度61.7度)及び母子里(下、磁気緯度35.6度)で観測された電磁イオンサイクロトロン波動のダイナミックスペクトル。太陽風の圧力パルスに伴って、16-18UTに昼側に位置していたカナダのアサバスカで周波数が0.2-0.8Hz付近の電磁イオンサイクロトロン波動が発生していることがわかる。

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図3.エネルギーが0.6、1、2MeVの電子が大気に侵入した際の各高度におけるエネルギー散逸量。