PSTEP Science Nuggets No.4 (20170111)

大型フレア・CMEを生じる太陽活動領域の統計的傾向

鳥海 森(国立天文台)

太陽表面に発生するフレアやコロナ質量放出(CME)のうち、特に強力なものは、黒点を含む活動領域の内部や周辺で生じることが知られています。このような大型爆発現象を生じる活動領域の統計的傾向を調べるため、本研究では2010年5月以降の6年間に太陽面の中心付近で起きたM5クラス以上の全てのフレア現象を、SDO衛星の観測データをもとに解析しました。その結果、全51イベントを生じた29の活動領域のうち、80%以上が「デルタ型黒点」と呼ばれる複雑な磁場構造を有していることが明らかになりました。また、フレアの継続時間はフレアリボン(フレア中に彩層で観測される増光現象)のサイズに比例していることが分かり、これは磁気リコネクション理論に基づいたフレア発生モデルの予測とよく一致していました。フレアには、大型イベントであってもCMEを生じない例があることが知られています。今回の統計研究からは、CMEを生じるイベントと比較した場合、CMEを生じないイベントでは、黒点全体の面積に対するフレアリボン面積の割合が有意に小さいという結果が得られました。これらの結果を応用することで、フレアの継続時間やCME発生の有無を事前予測できる可能性があります。さらに、過去の大型黒点や大型フレアの観測データを今回の統計結果と比較することで、太陽において巨大フレア(スーパーフレア)が発生する可能性も示唆されました。

Toriumi, S., Schrijver, C. J., Harra, L. K., Hudson, H., and Nagashima, K. (2017), Magnetic Properties of Solar Active Regions that Govern Large Solar Flares and Eruptions, Astrophys. J.,

http://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/834/1/56

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図1. 解析したフレア現象の1例。2014年10月24日に発生した大型フレア。(a)可視光で観測した黒点。(b)表面磁場強度(白:N極、黒:S極)。(c)紫外線で観測した彩層のフレアリボン。(d)軟X線強度の時間変化(矢印はフレアの継続時間)。

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図2. 代表的な統計解析結果。(左)全51イベントのフレア継続時間(縦軸)とフレアリボン距離(横軸)をプロットした散布図。フレア継続時間とリボン距離は線形に比例していることが分かる。同様の結果は、横軸をリボン面積やリボン内の磁束量としても得られる。(右)リボン面積の黒点面積に対する割合のヒストグラムを、CMEを生じたイベント(黒)と生じなかったイベント(赤)についてプロットしたもの。破線はヒストグラムにおける平均値。CMEを生じなかったイベントでは、リボンが活動領域全体に比べて小さいことが分かる。同様の結果は、横軸をリボン内磁束量の活動領域磁束量に対する割合としても得られる。

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図3. 18世紀後半以降では観測史上4番目の大きさの黒点で発生した大型フレア(1946年7月25日)。このイベントは、画像として記録されたものとしてはおそらく最大のフレアリボンを残した。(左)カルシウム線で観測した黒点と(右)水素アルファ線で観測したフレアリボン(いずれもパリ天文台提供)。統計研究の結果から、黒点の磁束量は1.5×10^23 Mx、フレアに寄与した磁気エネルギーは8×10^33 ergと推計される。観測史上最大の黒点(1947年4月:推定磁束量2×10^23 Mx)がフレアを起こした場合、磁気エネルギーは10^34 ergに達する可能性がある。