PSTEP Science Nuggets No.12 (20180702)

噴出する太陽磁気フラックスロープのダイナミクス

井上諭(名古屋大学)

太陽フレアやコロナ質量放出(CME)は、地球近傍の電磁気環境に多大な影響を与えるので、その発生過程からダイナミクスを理解することは、太陽プラズマの基礎物理過程を理解するだけではなく、宇宙天気予報の精度を上げるためにも極めて重要になります。また、フレアやCMEに伴って螺旋状にねじれた磁力線群である「磁気フラックスロープ」が噴出される様子がよく観測されています。このような背景から、太陽フレアからCMEに到るまでの一連の物理現象を理解するためには、磁気フラックスロープの形成過程からその噴出過程までの一連の力学過程を理解することが重要であると考えられています。
本研究は、太陽表面から噴出する磁気フラックロープの形成過程と放出過程を電磁流体力学シミュレーションによって数値的に調べました。特に、より現実的に模した磁場環境を構築するために、太陽表面の観測磁場データから外挿される非線形フォースフリー磁場をシミュレーションの初期条件として用いました。非線形フォースフリー磁場については、Science Nuggets No.6, No.7を参照してください。図1に示すように、活動領域の中心の磁力線には強い電流が流れており、フレアを引き起こす自由エネルギーが蓄積されていると考えられています。我々はこの非線形フォースフリー磁場に擾乱を与えることで、噴出するフラックスロープの形成から放出までを数値的に再現することに成功しました。図2に示すように、まず擾乱によって平衡状態を失ったねじれた磁力線が、上空へと放出されます。その過程で、周囲のねじれた磁力線と磁気リコネクションをすることで、さらに巨大でかつさらに強くねじれた磁気フラックスロープが形成されることがわかりました。また、コロナの磁場環境から、フラックスロープの不安定性の成長を阻む領域が理論的に予測され、その領域ではフラックスロープの上昇は減速、あるいは抑制されると考えられてきました(図2aの断面図の白色の領域に該当する)。しかし、我々の結果はその領域においてもフラックスロープは急激に加速され、その結果、フラックスロープがCMEへと成長する可能性を指摘しました。詳細な解析から、フラックスロープの不安定性の成長だけではなく、磁気リコネクションとの非線形相互作用がフラックスロープの加速を促進させるのに重要であることを明らかにしました。


図1: 太陽活動領域11158で観測された太陽表面磁場より外挿された3次元磁場(非線形フォースフリー磁場)。観測磁場はM6.6フレア(2011年2月13日17時34分)が発生する約90分前の磁場を用いている。背景は磁場のBz成分をプロットしており、磁力線の色は電流の値である。

図2: 磁気フラックスロープのダイナミクスの時間発展。線は磁力線を表しており、色は鉛直上向きの速度(Vz)を表している。aの断面図には減衰指数(decay index)という値をプロットしており、赤い色で示す領域で磁気フラックスロープが不安定化すると理論的に予測されている。

参考文献
Satoshi Inoue, Kanya Kusano, Jörg Büchner, & Jan Skala, “Formation and Dynamics of Solar Eruptive Flux Tube”, Nature Communications 9, 174 (2018)
http://www.nature.com/articles/s41467-017-02616-8