PSTEP Science Nuggets No.13 (20180709)

巨大太陽フレアを予測する新たな磁場パラメタについて

Johan Muhamad(名古屋大学)

太陽フレアによる巨大なエネルギーの放出は人工衛星や航空機の運用や電力・通信など影響を与えます。そうした影響を軽減するためには、太陽フレアの発生と影響を正確に予測することが必要であり、そのためには巨大フレアを潜在的に引き起こす恐れのある太陽面活動領域の特異性を明らかにすることが重要になります。しかしながら、フレアを引き起こす活動領域を明確に区別する特徴が何であるかは未だに明らかにはなっていません。それゆえ、太陽フレアの発生を決定づける磁場の特徴量を見出すことはとても重要な課題となっています。

我々はこの課題に電磁流体力学不安定性に関する最新の研究成果を基に取り組みました。しばしば、太陽フレアを発生させる領域では、2つのループがつながったダブルアーク構造やシグモイドと呼ばれる構造が現れます。こうした構造は磁気シアをもつ2つのループの磁気リコネクションによってつながることでできることが考えられます。それゆえ、そうしたダブルアーク型の磁場構造の安定性が、太陽フレアの発生にとって重要である可能性があります。石黒と草野(2017)によると、ダブルアーク型の電流ループは、ある条件を満たすと「ダブルアーク不安定性」と呼ばれる新しい不安定性を成長させ、上昇しながらエネルギーを解法します。このダブルアーク不安定性は、よく知られているトーラス不安定性と同様に電流リングに働くフープ力によって駆動される不安性ですが、電流形状の違いによってトーラス不安定性とは異なる新たなパラメタによって、その不安定化条件が与えられます。ダブルアークループの磁力線のねじれから求められるκパラメタが一定の閾値を超えることがその不安定化条件になります。詳細はIshiguro & Kusano (2017)を参照ください。

私達はこの不安定化条件に注目し、2011年に3日間大型フレアを連続して引き起こした活動領域NOAA11158の磁場構造を連続解析しました。そのため、ソーラー・ダイナミクス・オブザバトリ(SDO)衛星に搭載されているHMI観測装置による太陽表面磁場データSHARPを使い、フレア発生前後3日間のこの活動領域の3次元平衡磁場を非線形フォースフリー(NLFFF)モデルによって図1(左)のように計算しました。
パラメタκの計算のためには磁気リコネクションによって出来るダブルアーク型の電流構造を特定する必要がありますが、その予測は困難であるため、NLFFFから計算される磁場のねじれが一定値より大きな磁力線(図1左の黄色線)磁気リコネクションによってダブルアークを形成したときのκ値をκ*と定義して求めました。図1右は磁場のねじれを磁力線の足に位置づけたときの分布を示しており、黄色の等高線がねじれの強い領域を表します。この仮定は、ねじれが最も強くより不安定となりやすい磁力線が磁気リコネクションを受けることに対応しているため、κ*はκ値の上限を与えるκの代替パラメタと考えることができます。それゆえ、κ*が不安定性の閾値を超えることは、ダブルアーク不安定性のための必要条件になります。

活動領域NOAA11158のκ*の時系列を3日間解析したところ、図2に示すようにこの期間に発生した2つの大フレア(M6.6クラスとX2.2クラス)の前にκ*の値は大きく増加し、フレアの直後に急激に減少することを見出すことができました。この結果はκ*とそれによって評価されるダブルアーク不安定性が、フレア発生と強い関係を持っていることを意味します。特に、κ*が閾値を超えることがフレア発生の必要条件であることは、フレア発生予測にとって重要な知見であるため、今後、統計的な研究を通してこの結果の普遍性を検証する必要があります。また、κ*が閾値を超えても直ちにフレアが発生するわけではありません。これはフレア発生の最終的なトリガとなる磁気リコネクションが、単に磁気エネルギーや磁場のねじれの蓄積の結果として起きるわけではないことを示唆しており、フレア発生を精密に予測するためにはさらに詳細な磁場構造の解析が必要であることを示しています。


図1: (左図)活動領域 NOAA11158の磁場観測データから再現された非線形フォースフリー磁場の磁力線構造。黄色い線はねじれの強い磁力線。(右図)磁場のねじれが強い領域を表す。

図2: 活動領域 NOAA11158における太陽フレア活動(軟X線フラックス)、κ*、NLFFFから評価した自由磁気エネルギーの時間変化

本研究は、以下の論文として出版されます。
“A STUDY OF MAGNETIC FIELD CHARACTERISTICS OF FLARING ACTIVE REGION BASED ON NONLINEAR FORCE-FREE FIELD EXTRAPOLATION” by
Johan Muhamad, Kanya Kusano, Satoshi Inoue, and Yumi Bamba
The Astrophysical Journal (in press)
Reprint availbale on https://arxiv.org/abs/1807.01436
参考文献
“Double Arc Instability in the Solar Corona”, Ishiguro, N., and Kusano, K. 2017, ApJ, 843, 101, DOI: 10.3847/1538-4357/aa799b