PSTEP Science Nuggets No.5 (20170607)

「ひので」衛星により見えてきた熱的非平衡プラズマ

今田 晋亮(名古屋大学)

宇宙空間に存在するプラズマでは粒子間のクーロン衝突は非常にまれであるため、プラズマは熱的に非平衡状態になると考えられています。太陽コロナのような衝突が弱い環境ではプラズマは、現象によって熱的に平衡・非平衡のどちらでもなりえると考えられます。(ひので観測による熱的非平衡プラズマのひのでによる観測に関するまとめは、天文月報 第109巻 第9号 637−641、及びSpringerひので10周年特集号(印刷中)。)熱的非平衡プラズマの代表的なものとして電離状態が非平衡な状態(電離非平衡)があげられますが、本研究では太陽フレアに伴う彩層蒸発流が非常に初期の段階において電離非平衡状態であることを、「ひので」衛星観測と数値計算の比較から明らかにしました。これまでフレア時の彩層蒸発流は100万度より低い温度では下降流、高い温度では上昇流が生じると考えられてきましたが、今回「ひので」衛星の高い時間分解能によって、フレアのごく初期には図にあるように高温(300万度)のプラズマでも50 km/secの下降流を示すフレアが存在することが明らかとなりました(図1、図2)。さらに数値計算の結果、この下降流を生成するには、電離が非平衡な状態にならざるを得ないことが明らかになりました(図3)。このように、太陽で起こるフレアのような非常に速い現象を理解するには熱的非平衡性を十分に考慮する必要があることがわかりました。近年、太陽物理分野だけでなく、様々な宇宙の分野で熱的非平衡プラズマの議論がされており、今後の発展が期待されます。

Imada, S., I. Murakami, and T. Watanabe, Observation and numerical modeling of chromospheric evaporation during the impulsive phase of a solar flare, Phys. Plasma, 22, 101206, 2015.
http://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.4932335

「ひので」衛星により見え始めた熱的非平衡プラズマ、天文月報, 第109巻, 第9号, 637−641.
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2016_109_09/109_9_637.pdf

Imada, S., Thermal Non-equilibrium Plasma Observed by Hinode, Astrophysics and Space Science Library in press.


図1:SDO衛星193A(主に150万度程度のプラズマをあらわす)による太陽フレアの観測. およびGOES(軟X線)のライトカーブ。図1aはフレアの初期の状態(図1cの点線左側の時刻)をあらわす。足元に対応する2点が光っている。


図2:Hinode/EISによるフレア足元における彩層蒸発流の温度依存性。200万度程度のプラズマでも下降流を示す。


図3:電離非平衡状態を考慮した、彩層蒸発流の計算結果。図3e及びgは数百万度のプラズマのフラックスを表し、マイナスの値は下降流を表す。