陸域海洋圏生態研究部の三野義尚助教が日本海洋学会日高論文賞を受賞
2026-09-16
陸域海洋圏生態研究部の三野義尚助教らの論文「Rapid increase of surface water pCO2 revealed by settling particulate organic matter carbon isotope time series during 2001–2009 in Sagami Bay, Japan」(Journal of Oceanography, 79: 317–331, 2023, https://doi.org/10.1007/s10872-023-00688-3)が、2026年度日本海洋学会日高論文賞を受賞しました。
日本海洋学会の表彰リンク:https://kaiyo-gakkai.jp/jos/about/jos_awards
受賞理由:
大気二酸化炭素(CO2)濃度の上昇に伴う地球温暖化に対する海洋の応答を理解することは、気候変動研究の最重要課題の一つである。外洋域では、HOT、BATS、K2に代表される定点観測によりCO2分圧(pCO2)など炭酸系成分の長期的な上昇が把握されてきたが、環境因子が複雑かつ大きく変動する沿岸海域において、生物ポンプを含めた炭素循環に関する観測を高い時間分解能で長期にわたって実施した研究は極めて限られている。
本研究は、光合成に伴う同位体分別の係数(εp)と溶存CO2濃度 ([CO2(aq)])との間に認められる理論的な関係を応用して懸濁粒子や沈降粒子中の炭素安定同位体比(POC-δ13C)から表層水のpCO2を再構成する手法を確立した。本研究で得られた[CO(2aq)]とPOC-δ13Cの関係性は、過去に外洋域で報告された値と整合的であり、外洋域で確立された方法論が沿岸域でも成立することを実証した意義は大きい。また本研究は、9年半にわたる観測から、相模湾中央部は年間を通じて大気中のCO2を活発に吸収し、その60~75%がPOCとして中深層に輸送・隔離されている一方で、表層水中のpCO2は大気pCO2の約2倍の速度で上昇していたことを示した。さらに、その分圧差の変化から推定されるCO2吸収量が毎年2%ずつ減少していたことを明らかにし、沿岸域におけるCO2吸収の弱化と生物ポンプ機能低下との関係を指摘した点は特筆すべき成果である。これら一連の研究は、沿岸域の炭素循環を理解するための新たな海洋観測の枠組みを提示し、今後の海洋炭素吸収能変化の予測に大きく貢献するものである。
一方で、本研究のpCO2推定法はPOC-δ13Cを介しているため、光合成における同位体分別、溶存態無機炭素の同位体組成および分類群ごとに異なる植物プランクトンの取り込む炭酸種の違いなど、複数の要因が結果に影響し得る。これらの要素をさらに精緻化することで、多くの海域での本手法の活用が期待される。
本研究は、将来への発展性を備えた優れた研究であり、また、大学の練習船だからこそ実現できた高頻度の沿岸観測に基づく貴重な成果である。
(日本海洋学会長 江淵直人氏の推薦書より抜粋)


