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熱帯気候変動の監視のための大気海洋中の波動エネルギーの追跡解析

2021-05-11

 本研究プロジェクトでは、緯度帯の制限がないエネルギーフラックスという新しいメトリック(Aiki et al., 2017 PEPS)を原動力として新しい研究分野を開拓しようとしている。Toyoda et al.(2021, J. Clim.)は、気象研究所の海洋再解析プロダクトにおける波動エネルギー解析とその枠組みでデータ同化の評価を行った。ENSO(El Niño-¬Southern Oscillation)は熱帯太平洋を中心とする顕著な気候現象であり、その影響は全球に及ぶ。ENSOの正確な表現は全球気候の経年変動の理解と予測に重要であるため、多くの観測・理論研究が行われ、また、現業の季節予測の重要なターゲットとなっている。1997–1998年のEl Niñoは西部熱帯太平洋における3月の西風イベントがトリガーとなったと考えられている。1997年後期には、SST正偏差に応答した西風偏差により正のエネルギーインプットが行われる。本結果では、中央部での強い海面インプット(は、9月から12月初旬まで断続的に起こり、これらがケルビン波を励起し、東方に伝播して、更に躍層を押し下げている(図1a-c)。10月の分布で、中央部で強い西風偏差により、赤道域の下向き変位と共に赤道外域で上向きの変位が励起されて西向きに伝播し、更に西岸で反射して東進し、上向き変位の海域が徐々に拡大している。これに伴って海面インプットが弱化し、12月平均(図1c)では中央部での下向き躍層変位と強い海面インプットはほぼなくなっており、El Niñoは終息に向かう。この赤道外域においてエネルギー収支を調べると風応力と同程度のデータ同化によるエネルギーインプットが確認された。即ち、El Niño終息期の予測向上のためには、このプロセスの定量的な改善が鍵となる可能性が示唆される。

Toyoda, T., and Coauthors, 2021: Energy flow diagnosis of ENSO from an ocean reanalysis. J. Climate, 34 (10), 4023–4042, doi:10.1175/JCLI-D-20-0704.1.
科研費基盤A(2018-2021):大気と海洋の波動エネルギーのライフサイクル解析による熱帯気候変動メカニズムの解明, 相木秀則・福富慶樹(名古屋大)、尾形友道・名倉元樹(JAMSTEC)、菅野湧貴(電中研)、豊田隆寛・中野英之(気象研)


図1:(a–c) エネルギーフラックス(矢印)と30–200 m深の躍層変位(シェード)、及び、風応力によるエネルギーインプットの分布。それぞれ第1–10モードの合計で、1997年10月(a)、11月(b)、12月(c)における平均値。