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北海道の森林大気における有機エアロゾルの存在量・化学構造・光吸収特性
~生物起源の有機エアロゾルの低い光吸収性を発見~

2022-08-25

大学院環境学研究科のSonia Afsana博士後期課程学生、気象大気研究部の持田陸宏教授らの研究グループは、北海道大学・中部大学との共同研究において、北海道の森林大気に存在する有機微粒子(エアロゾル)の存在量・化学構造・光吸収特性を明らかにし、生物起源の有機ガス由来のエアロゾル生成がフミン様物質(HULIS)と呼ばれる有機化合物群の存在に強く寄与していること、またこの森林で観測されたHULISが、都市で観察されるHULISよりも光吸収性が低い特徴を持つことなどを示しました。

大気中の有機エアロゾルは光吸収性を持ち、それが地球の放射収支に及ぼす影響が近年注目されています。本研究では、フィルタに採取したエアロゾル試料から極性の低い~高い有機化合物群を抽出して分析する手法により、北海道の森林大気に存在する有機エアロゾルの存在量・化学構造・光吸収特性を明らかにしました。その結果、冬季にはHULIS等の光吸収性が高まり、長距離輸送されたエアロゾルの影響などが考えられる一方、HULISの濃度は夏季に高く、生物起源の有機ガス由来のエアロゾル生成がHULISの存在に強く寄与していること、また、観測されたHULISが都市で観察されたHULISよりも光吸収性が低い特徴を持つことを示しました(図)。近年、生物起源の有機ガスの発生が温暖化で促進されると、生成するエアロゾルが放射収支に関与して温暖化を緩和する可能性が指摘されています。本研究の結果は、このようなエアロゾルの光吸収性が低い(つまり大気を暖めにくい)ことを示唆しており、気候と植生を起源に持つエアロゾルの関わりを理解する手掛かりになると期待されます。

本研究成果は、2022年8月23日付国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。本研究は、科学研究費補助金基盤研究(B)「大気有機エアロゾルの吸湿性に対する定量的理解の深化―化学構造・起源との関係―」等の支援のもとで行われたものです。

論文情報
Sonia Afsana, Ruichen Zhou, Yuzo Miyazaki, Eri Tachibana, Dhananjay Kumar Deshmukh, Kimitaka Kawamura, and Michihiro Mochida: Abundance, chemical structure, and light absorption properties of humic‑like substances (HULIS) and other organic fractions of forest aerosols in Hokkaido, Sci. Rep., 12, 14379, 2022.
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-022-18201-z