Science Nuggets No.25 (20191204)

太陽フレア黒点の自発的形成を再現した世界初のシミュレーション

宇宙航空研究開発機構 鳥海 森

磁気嵐やオーロラの原因となりうる強力な太陽フレアは、複雑な形状の太陽黒点に発生しやすいことが知られています。しかし、太陽内部を光学的に観測することは不可能なため、太陽内部からどのように磁束が出現してこれらのフレア黒点が作られるのかは解明されていませんでした。これを解決する手段として、太陽内部から磁束を浮上させ黒点を形成させる数値シミュレーションが数多く試みられてきました。しかし、それらは磁束に人工的な複雑性を与える、もしくは磁束を計算ボックスの中へ強制的に押し込むといった、現実の太陽とは大きく異なるモデルでした。本研究では、堀田らが開発した最新の数値計算コードR2D2を用いることで、これらの仮定を使わず、太陽内部の磁束が熱対流に押し上げられフレア黒点が自発的に形成する様子を、世界で初めて再現することに成功しました。

R2D2の特徴は、太陽表面に見られる大きさ約1000 km・寿命約10分の粒状斑対流と、対流層深部に存在する大きさ10万km・寿命1か月程度の大規模対流という、スケールの極端に異なる熱対流を一つの計算ボックスのなかで同時に解くことができる点にあります。本研究では、このようなリアリスティックな熱対流を生じさせた計算ボックスの内部に磁束を置き、対流が磁束を押し上げる様子を調べました。その結果、大規模な上昇流が磁束を2か所で浮上させることで、太陽表面では出現した黒点同士が互いに強く押し合い、「デルタ型」と呼ばれる複雑な形状の黒点が形成されました(図1, 2)。過去のデルタ型黒点は、X10クラス以上という強力な太陽フレアを生じたこともあります。今回のシミュレーションの結果は、フレア黒点の形成、ひいては太陽フレアの発生は、太陽内部における磁束と乱対流との相互作用によって決定される、確率的なプロセスであることを示唆しています。


図1:フレア黒点が形成される様子。計算開始32時間後と42時間後における(左)可視光強度、(中)磁場強度(白:正極、黒:負極)、(右)計算ボックスの垂直断面における磁場強度、を表す。正極と負極の黒点が互いに衝突することで、正・負極暗部が一つの半暗部に囲まれた「デルタ型」の黒点が形成される。

図2:デルタ黒点の上空には強くねじれた磁力線が形成されている。これはフラックスロープと呼ばれ、太陽フレアが発生すると宇宙空間へ放出される。

参考文献
S. Toriumi and H. Hotta, “Spontaneous Generation of δ-sunspots in Convective Magnetohydrodynamic Simulation of Magnetic Flux Emergence”, The Astrophysical Journal Letters, 886, L1, 2019
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab55e7
R2D2コードについては PSTEP Science Nugget No.19 を、デルタ型黒点については Science Nugget No.4 をあわせてお読みください。