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訃報:上出洋介名誉教授(1943-2021)

2021-12-20

 本研究所の前身の1つである名古屋大学太陽地球環境研究所(STEL)元所長を務められた上出洋介(かみでようすけ)名古屋大学名誉教授・北海道りくべつ宇宙地球科学館・銀河の森天文台館長が、2021年(令和3年)12月9日に逝去されました。享年78歳でした。
 オーロラ及び磁気圏電離圏結合過程に関する世界を代表する研究者であった上出教授は1943年に小樽市で生まれ、1966年に北海道大学卒業、1972年に東京大学大学院理学系研究科で博士号を取得されました。その後、1973年から1975年までアラスカ大学フェアバンクス校地球物理学研究所、1975年から1977年までコロラド大学ボルダー校にて地磁気嵐とサブストームに関する先駆的な研究を開始され、Kamide-Richmond-Matsushita (KRM) 法として現在広く知られているオーロラ帯の地表磁場変動から電離層電流電場と沿磁力線電流を求めるモデルを開発されました。このモデルは、米国大気研究センター(NCAR)で広く使用されている熱圏電離圏電気力学大循環モデル(TIEGCM)の原型の1つです。その後、上出教授は1977年に京都産業大学准教授、1981年に同教授として教育研究にあたられました。その後、1992年に名古屋大学に異動され、2007年までSTEL教授を、1999年から2005年まではSTELの所長も務められました。STELでは、Geospace Environment Data Analysis System(GEDAS)と呼ばれる新しいシステムを開発し、最先端の宇宙天気研究を推進されました。上出教授はまた1990年に新たに設立されたSTELの国際化に尽力され、多くのトップクラスの科学者を海外からSTELに招待すると共に、Substorms-4(ICS- 4、1998年3月、浜名湖)、第1回STEP-Results, Applications, and Modeling Phase(S-RAMP、2000年10月、札幌)、General Assembly of International Union of Geodesy and Geophysics 総会(IUGG、2003年6月から7月、札幌)など多くの国際会議を我が国へ誘致し、開催されました。これらの活動は全て現在、本研究所(ISEE)の発展につながっています。
 上出教授はまた、アジア・オセアニア地球科学連合(AOGS)の3人の主要な創設者の1人でもありました。 AOGSが若手科学者を顕彰する賞は、上出教授の貢献に敬意を表し“Kamide Lecture Award”と名付けられています。上出教授は2003年から2007年まで国際地球電磁気・超高層物理学協会(International Association of Geomagnetism and Aeronomy, IAGA)の副会長を、また国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)および太陽地球系物理学理学委員会(SCOSTEP)の国際委員会のメンバーを務められました。さらに、Journal of Geophysical Research – Space Physics やGeophysical Research Lettersの編集者を合計11年間務められました。これらの国際的な研究コミュニティへの貢献により、上出教授は英国の王立天文学会のAssociateとして認められ、同学会からPrice Medalを受賞されています。また、アメリカ地球物理学連合(AGU)のフェロー、国際宇宙航行アカデミー(IAA)のCorresponding Member、AOGSの名誉会員とAxford Medalの受賞、日本地球惑星科学連合(JpGU)のフェローなどにも選ばれています。
 また、上出教授は多くの一般向け書籍を出版し、太陽地球物理学のコミックシリーズの編集と出版などを積極的に進め、オーロラと太陽地球系物理学のアウトリーチに熱心に取り組まれました。コミックシリーズはSCOSTEPと共同で世界の10以上の言語に翻訳されています。この翻訳活動は現在も継続されており、太陽地球系物理学の一般市民への普及に大きく貢献しています。 2007年に名古屋大学を退職後、上出教授は2008年から2010年に京都大学生存圏研究所(RISH)の特定教授を務められた後、2010年から北海道りくべつ宇宙地球科学館・銀河の森天文台館長として多くの子供たちと市民への科学アウトリーチのために尽力されていました。
 上出教授は卓越した科学者であると共に、優しく前向きでユーモアを持ち合わせた人柄、そして科学コミュニティや地域社会へ献身的に貢献する姿から多くの人々に愛されていました。優れた科学者であり、我々の偉大な友人である上出教授を失ったことは大きな損失です。ここに上出教授のこれまでのご功績に対して、深い敬意と感謝の意を表すとともに、謹んでご冥福をお祈りいたします。